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ワンダー・ドッグ

介助犬に関する記事をUpします。

記事を書いたのはメリッサ・フェイ・グリーネ(Melissa Fay Greene)さんです。元記事はここにあります。

胎児性アルコール症候群の患者と介助犬のお話です。

~~ここから~~

ワンダー・ドッグ

1999年5月、43歳の作家でマルチメディア・プロデューサー、ドニー・カンター・ウィノカー(Donnie Kanter Winokur)は、夫で49歳のラビ、ハーベイ・ウィノカー(Harvey Winokur)と一緒に、夢にまで見た子供、不妊症の為あきらめかけていた子供を眺めていた。ロシアの孤児院で撮られた短いビデオの中で、色白で瞳の黒い1歳のアンドレイは綿のベビー服を着て、保育士に立たせてもらっている。もしこの子が欲しければ夫妻は養子縁組の法的な手続きを始める事になる。そして夫妻はその子が大好きだった。

4ヵ月後、ウィノカー夫妻はアトランタの自宅からロシアへ飛んだ。アンドレイを養子にする為だ。夫妻は子供の名前をイヤル(Iyal)に変えた。そして他にも1人、2日だけ年下で血の繋がっていない女の子を養子にし、モラーシャ(Morasha)と名付けた。4人はそろって孤児院が撮ったビデオに収まった。新しい両親は人生で最も幸福な日を迎えていた。2人の幼子は見知らぬ人の腕に抱かれキスされている間、大人しくしていた。1999年8月家族は家に帰りお祝いをした。贈り物やふわふわ浮かぶ風船に囲まれながら。

「3歳の誕生日を迎える頃から、ロシア人の赤ちゃんを養子に迎える私達の御伽噺は、ほころび始めたんです。」現在55歳のドニー・ウィノカーは言う。彼女はほっそりした元気な女性だ。茶色い髪を短く刈り込んで、唇をすぼめている。若干不機嫌そうな表情には過去の重い体験から来る疲れが加わっている。陽気で可愛いモラーシャと違って、イヤルはまるで反対に怒りっぽかった。彼は屈強で気前の良い男の子で、大きな真面目そうな顔をしている。輝く黒髪をヘルメットのように刈り込んで、愛嬌のあるクスクス笑いをする。しかし、ひとたび癇癪を爆発させると、家を揺るがす程だ。彼の癇癪の引き金を引くのは、例えばコップに書いてあるキャラクターとか、モラーシャのバービー人形とかの、何でも無い物だ。食事の時は表現しがたいほど急いで食物を口に突っ込む。スピードを出した自動車から、シートベルトを外して飛び降りようとする。毎晩怒りながら目を覚ます。「夜中に息子が来る音を聞くとパニックに襲われました。」彼女は言う。「最初は全部自分の責任だって思ってました。私が良い母親じゃ無いからだって。」幼稚園でイヤルは三輪車を他の子供にぶつけても全く悪びれなかったりする。あるいは全く意識していないのかも知れない。見知らぬ人にキスしようとしたり、つま先に触ろうとしたりする。友人達や信徒の人達は、(ハーベイ・ウィノカーはジョージア州ロスウェルのケヒラト・ハイム寺院(Temple Kehillat Chaim)を創設したラビだ)ウィノカー家の人々を安心させようと、「男の子は皆そうさ!」とか「家の子も同じだったよ!」とか言っていたが、次第に口ごもるようになり、両親と同じように心配し始めた。

丁寧に刈り込まれた茶色の髭を持ち、ワイヤー・リムのメガネをかけたラビのハーベイは、同情心に溢れた表情の持ち主だ。「イヤルの抱える障害は私達家族の在り方そのものを決定付けるようになりました。」彼は私にそう語った。

私達は夏の日曜日の朝、アトランタ郊外の家の天井の高いキッチンに座っていた。ガラスの引き戸は開け放たれ、庭にある赤い木製テーブルの上には花と小鳥のエサが所狭しと並べられている。13歳のモラーシャは友達と出かけるのでプール袋に水着をつめている。13歳のイヤルは1人でビデオ・ゲームをしていたが、母が作っているクラム・ケーキがいつオーブンから出て来るかと、始終気にしていた。その日朝早いころ、モラーシャは兄とビデオ・ゲームをしていた。2人は並んで、ゲームの中の領地に隠された宝を探していた。それは平和な時間だった。「イヤル、緑のボタン押して!」彼女が命令する。「緑のボタンよ!イヤル、カヌーの向きを変えるの!」彼は従った。しかし架空の王国の外では、彼は妹の言う事を聞かない。特に部屋から出て行って1人にしてくれと頼んだ時など、なかなか言う事を聞かない。若いティーンエイジャーの女の子にとって、中学校生活はストレス一杯だと思われる。大きくて不器用な兄が、同じ校舎をドタドタと歩き回り、あざけりやからかいの対象と成っている状況ではなおさらだ。

イヤルが3歳の誕生日を迎えてからの1年間、児童心理学者や小児科医、その他多くの専門家が彼を診察した。しかし一致した診断を下すには至らなかった。最終的にイヤルは、発達障害を専門とする小児科医、アラン・G・ワイントラウブ(Alan G.Weintraub)の診断を受けた。ワイントラウブはイヤルの小さな頭と、小さくて開いた眼、鼻の近くにある余分な皺、顔の中央部が平らに成っている所に注目した。イヤルは診断中に不安になり、動物のような声を上げて逃げようとした。彼は温和な絵の中にさえ、怯えさせるような題材を見つけてしまうのだ。ワイントラウブの診断はウィノカー夫妻にとって予期しない衝撃だった。イヤルの脳と中枢神経は母親の胎内にいた時にアルコールに含まれる奇形生成物、テラトジェン(teratogen)によって取り消しのできない損害を受けた。イヤルは生まれながらに障害を抱えている。イヤルの生みの親のアルコール消費については、何処にも記録は残って無いが、検査で得られた証拠は胎児性アルコール症候群、F.A.S.を差し示している。F.A.S.D.又は胎児性アルコール症候群で知られる一連の症状の内でも重篤なものだ。

母親の飲酒は胎児の神経組織や発達に害を成す事は良く知られている。それによって体の各部、顔、口蓋、関節、肝臓、性器、心臓、脳、そして神経組織に奇形が現れる場合がある。アメリカ疾病予防管理センター(C.D.C.)の出生異常発達障害国立研究センター(National Center on Birth Defects and Developmental Disabilities)に勤める、ジャケリン・バートランド博士(Dr. Jacquelyn Bertrand)によれば、妊娠中にアルコールを消費しても安全と確認された期間は、どのような量であれ、存在しないと言う。アメリカ公衆衛生局長官は妊娠中の完全な禁酒を呼びかけている。C.D.C.の推計によれば、アメリカでのF.A.S.発生率は新生児1000人当たり0.2人から1.5人だ。しかしこのデータは主に、子供の顔に異常が現れていて認識可能なケースしか表して無いと考えられる。その他に、外見は普通で隠された神経障害を持つケースが存在すると思われる。

おそらくは100人に1人程度の子供が、母体内でアルコールの影響を受けて生まれている可能性がある。A.D.H.D.や学習障害、精神疾患などは、F.A.S.の代わりに診断されやすい症状の幾つかの例にすぎない。1970年代に合衆国の医学文献に症候群の説明が記載されるより前に症状を発症した成人については、正確な診断は永遠に下されないであろう。

イヤル・ウィノカーは知的な障害を持っている。そして一連の2次障害をこうむる高いリスクも持っている。その中には、劣弱な決断力、衝動的行動、社会的孤立、学習上の限界、失業、ドラッグやアルコール中毒、服役、自殺衝動を含む精神障害、自立して生活する能力の欠如、不適切な性行動などが含まれる。真に有効な医療やセラピーは殆ど存在しない。

7歳、8歳、9歳の間、イヤルはしばしば無意味な赤ん坊言葉を途切れ無しに喋っていた。学校ではフルタイムで補助が必要であり、家では母親が常に注意していなければならなかった。ドニーは作家としての仕事を中断した。ハーベイは何百という集会と、次第に激しくなる家での混乱をやり繰せねばならなかった。しかしもし友人が、イヤルを迎えなければどうだったろうと訊いたとしたら、ウィノカー夫妻は恐怖と共に答えただろう。「私達抜きでこの子が育ってゆくところを想像するなんて、耐えられない。」ドニーは言う。「養子縁組を解消するなんて考えたこともありません!私達は息子を愛しているんです。」それでも彼女は認める。「イヤルを愛し続けるのは難しい事です。脳に障害を持った人間は愛情に対して貴方が思うような反応は示さないのです。子供に対する色々な感情と格闘しなければなりません。愛してると同時に怒りも感じる。混乱し、憤慨し、不満を持ち、そして恋い焦がれるんです。」

ドニーは、特別な補助を必要とする家族達が住む別の世界に足場を見つける。彼女はオハイオ郊外にある非営利の介助犬団体が自閉症介助犬を子供に与えてくれる事を見つけた。介助犬はイヤルを助けてくれるんじゃないだろうか?「気は確かかい?」夫は叫んだ。「犬なんていらないよ!」同じ屋根の下にもう1人吠える者を受け入れる。自分に注意を向けてくれと鼻を鳴らす生き物がもう1人。子供達が取り合いする種をもう1つ増やす。それは彼には耐えがたい事に思われた。「駄目だよドニー。それは行き過ぎだ。私は受け入れられない。」

「これこそが必要な助けかも知れないのよ。」彼女は固執した。

「犬が?」ハーベイは言った。「頼むから忘れてくれ。私を取るか犬を取るかだ。」

カレン・シャーク(Karen Shirk)はオハイオ州ゼニア(Xenia)で犬の訓練学校を運営している。2回も竜巻に襲われた場所だが、南北戦争前からの建物が点在する美しい村だ。だぶだぶのジーンズと男物のTシャツを着た彼女は、気管に着いた金属製ボタンから息をして、大きく傾きながら歩く。彼女は、かつてV.F.W.(Veterans of Foreign Wars:海外戦争復員軍人協会)ホールとして使われていたレンガ造りの建物の、ずっと向こうにある事務所へ私を案内してくれた。私達は元気に跳ね回るパピロンの群れの中に入った。パピロンは愛玩犬の一種で、その滑らかな大きい耳から、フランス語で『蝶』を意味するこの名前が付けられた犬種だ。彼女が群れから離れたのは、ほんのちょっと前だったにも関わらず、何ダースもの犬たちはまるで2度と会えない事を恐れていたかのような喜びようだった。何頭かは興奮して走り回り、何頭かは机の上に飛び乗って、コンピュータのキーボードの側でタップダンスを踊った。犬たちは、とがった小さな顔を上げて、高いピッチの吠え声で喜びを歌い上げた。今49歳のシャークが机の椅子に到着すると、犬たちは彼女の足元へ集まった。まるで凧のように耳を持ち上げて彼女を見つめた。彼女が笑うと犬たちは耳を振るわせた。

若いころシャークはソーシャル・ワークの修士号を取ろうとしていた。そして認知症成人の世話をする仕事をフルタイムでしていた。彼女の話では、呼吸困難で救急病院に運ばれるまで、何の屈託も感じて無かったと言う。何か月か入院した彼女は24歳の時、無慈悲な診断を受ける。重症筋無力症(myasthenia gravis)、神経と筋肉に関連する稀な病気である。病院を退院した時、彼女は常に介護を必要とする人工呼吸器に依存した患者に成っていた。

病気に成って6年たった頃、新しい看護師が彼女に訊いた。「介助犬を使ってみたらどう?」テレビの前でぐったりしているシャークは月日の感覚も時間の感覚も無いかのように見えた。犬は動くのを助けてくれると看護師は言う。抽斗を開けたり、新しいソックスを持ってきてくれたり。看護師は又、この孤独で悲しい患者の新たな人生を、犬が切り開いてくれるのではないかと期待していた。

「どうやって犬の世話をするって言うの。」シャークは苛つきながら答えた。「自分の世話も出来ないって言うのに。」

「あなた、犬の世話なら出来るわよ。」看護師は言った。

1992年からシャークは国中の介助犬協会へ手紙を書いた。しかし全部断って来た。「人工呼吸器に頼っていて実りある生活を送れそうも無い人へは、誰も犬をくれようとしないわよ。」彼女は看護師に言った。しかしついに彼女は、待ち人リストの最後の席を占める。1994年、訓練士がゴールデン・リトリバーの受け入れ準備に来訪した。シャークは珍しく希望を感じた。しかし協会は犬の代わりに手紙を送ってきた。「私どものガイドラインでは、人工呼吸器を使う人々へは犬を供給できない事になっております。」

「もう自分が生きようが死のうがどうでも良いと思いました。」彼女はそう私に話した。彼女は話す時、喉にある金属製のノブを指で触る。そうするとハスキーでかすれてはいるが、声が出せる。「私の目の前にあるのは、長くて緩慢な死です。私はモルヒネを溜め込み始めました。」

「カレン、」看護師が言った。「ベッドから出て子犬を受け取りに行くのよ。」

そう言われて彼女は、ベッドの中でゆっくりと着替え、車いすの中に倒れ込んだ。看護師は彼女を、小さな黒いジャーマン・シェパードの子犬の所へと連れて行った。シャークが子供の時に飼っていたのと同じ犬種だ。こうしてシャークはベンと出会った。「私はベンと一緒に、一気に人生を取り戻したわけでは無いの。少しずつだったわ。」彼女は言う。子犬は最初、しつけ教室へ通う為に外へ連れ出された。ベンと一緒だと、何処へ行っても、電動車椅子に乗って人工呼吸器をつけた自分に、見知らぬ人が挨拶してくれた。一人だったら無かった事だ。それはシャークが忘れる事の出来ない教訓だった。

子犬クラスを卒業したベンは、漆黒の毛皮にオレンジ色の斑点が、ふさふさの尻尾と瞳に散らばった美しい犬へと成長した。ベンは難しく考え込む事も、問題を解決してくれる事も無い。しかしベンは賢く、シャークを愛している存在だった。

シャークは車椅子用バンを手に入れ、コロンバスの犬の訓練学校へ通った。その訓練学校で、オハイオの田舎から出てきたクルーカットの髪型のジェレミー・デュレボーン(Jeremy Dulebohn)がベンに基本的介助動作を教えた。ドアや抽斗の開け閉め。シャークの財布を店員に渡してお釣りを膝の上に返す。ベッドから車いすへ移る時、体を支える。寝るときに靴やソックスやジーンズを取ってあげる。「水を頼むとベンは冷蔵庫へ行ってペットボトルを取って来てくれるの。」彼女は言った。「洗濯物を頼むと、乾燥機から乾いた服を出して籠に入れ引きずって来るの。」

犬たちは、少なくともこの15000年の間、人間の事を知り、人間に近くなってきている。犬たちは私達が知る以上に、あるいは私達自身以上に変わってきているのだ。多くのジャーマン・シェパードと同じく、ベンも一人だけになつく犬だった。心臓の外科手術からシャークが帰って来たとき、ベンは彼女を注意深く見守っていた。「昼間は看護師がいるけど、夜は私1人だけなのよ。」彼女は言う。「私はモルヒネの点滴をしたの。気が付かなかったけど、それは薬の組み合わせとして致命的だったのね。意識を失っちゃったのよ。」電話が鳴った時、取った方が良いのか留守番電話に答えさせるのか、シャークの命令を待つようにベンは訓練されている。しかしその夜、飼い主が倒れている状況で、ベンは命令を待たずに受話器を取り上げ、ベッドの上に落とすと吠えまくった。電話をかけて来たのはシャークの父親だった。父親は異変を感じとり救急へ電話した。救急隊がシャークに話したところでは、あのままでは死んでいただろうと言う。

側にベンを従えた彼女は、成人認知症介護センターのマネージャーに成る。強さと自信を取り戻した彼女は、新たな医療の助けもあり、日中は人工呼吸器を外せるまでになった。そして考え始めた。はたしてどれくらい多くの人が、犬を飼うには「障害が大き過ぎる」と言われているのだろうかと。「自分で協会を始められるのではないか」と彼女は考え始める。「年に4頭か5頭の犬を用意して、大きな協会に断られた人たちに与えるの。」彼女はその考えを同僚に話し、すぐさま12歳の娘に介助犬を欲しがっている夫妻の事を知る。娘さんは脊髄卒中(spinal stroke)で体が麻痺していた。多くの人の印象では、どの介助犬協会も子供は対象にしていないと言う。

シャークは介助動物を規定する、障害を持つアメリカ人法(Americans With Disabilities Act)を勉強し、両親の援助さえあれば子供に介助犬を与える法的な障害は存在しないことを発見した。1998年10月、彼女は非営利団体、4 Paws for Ability(介助の4本足)の役員会を立ち上げる。彼女はドッグ・シェルターからジャーマン・シェパードの雑種、バトラーを救い出し、訓練士を雇って12歳の子供の介助に必要な訓練を施した。そして介助犬協会のパイオニアとなったのだ。「至る所から問い合わせが来ました。家の子は若すぎるでしょうか?私は年寄過ぎるでしょうか?障害が重すぎるでしょうか?軽すぎるでしょうか?」彼女は言う。「私は答えます。『もしあなたの生活が犬で改善されるなら、もしあなたとあなたの家族がちゃんと犬を世話できるなら、私たちは犬をあげられます。』」

10歳の自閉症の息子を持つ両親が4 Pawsに連絡してきた。これは新しい領域だった。「目に見えない障害」を持つ成人、例えば心的外傷後ストレス障害の患者へ介助犬を与える事でさえ、最先端の分野となる。子供に対しては一般的に試されてもいない。雑種のレスキュー犬、パッチは、子供の自閉症児の介護用に訓練された世界でも最初の犬の一頭となる。

2001年、デュレボーンはフルタイムで4 Pawsに参加し、訓練ディレクターに成る。今日、彼は大所帯となった訓練スタッフ、獣医、犬の美容師、散歩係を統括している。犬はドッグ・シェルターとか寄付とか協会で生まれた子犬とかの混合で、すべて500時間の訓練を受ける。業界の標準である120時間をはるかに上回る時間だ。「どんな犬種でも介助犬に成り得ます。」37歳のデュレボーンは言う。「しかしながら今までの経験から言って、ラボラドール、ゴールデン・リトリバー、ジャーマン・シェパードの約70%は私達のプログラムを卒業して行きますが、他の犬種ですと2%ほどです。」4 Pawsの犬の訓練には22,000ドルかかっている。顧客は協会に対して13,000ドルの寄付を求められる。差額は公的補助や寄付で埋められる。今日までに4 Pawsは600頭の犬を提供している。

社会性を身に着けさせる為に、デュレボーンは子犬を土地の家族数軒に預ける。そして基本的なしつけ訓練の為に、特別に選ばれた監獄の囚人たちに預けている。「殺人で収監されている囚人たちが、犬を返さなければならない時、泣き出すんです。」シャークは言う。「しかし私達は又、別の犬を預けますから。」4 Pawsの犬は殆どが子供達の所へ行く。そして子供達はセラピー犬とか追跡犬とかよりも、遊び相手が欲しいのだから、デュレボーンは囚人たちに、子犬に芸を教える事を頼んでいる。「転げまわれ」とか「しゃべれ」とか、「やったね!」とか「死んだふり」とかだ。

「私はベンに教わりました。犬は友達を作るのを助けてくれるって。」シャークは言う。「私達は、いろいろな子に犬を与えています。車椅子の子、人工呼吸器をつけた子、自閉症の子、小人症の子、癲癇の発作や認知障害の問題を抱えた子。もしも犬に芸が出来たら、他の子供が会いに来てくれるでしょう。クールな犬がいれば、子供はその子が抱えた障害なんて気にしないんです。」

あるユーモアのセンスを持った囚人が訓練した犬は、「死んだふり」の命令を受けると、まるで撃たれたかのようによろめき、床をのた打ち回り、跪いて又立ち上がり、体を折り曲げると情けなさそうに鼻を鳴らし、最後に劇的に倒れてみせる。

クールな犬だ。貰える子供は幸運だ。

2007年、4 Pawsに電話で問い合わせが来た。アトランタに住む、特別な世話が必要な息子の母親だった。イヤル・ウィノカーの担当医は20通りの異なる治療を行い、目立った成功を上げていなかった。イヤルは9歳に成っていた。知能指数は80で下がり続けている。いまだ片言しか喋れない。奇妙な考えに取りつかれると永遠にそれを繰り返す。依然、悪夢に悩まされていてベッドを濡らす。時としてイヤルは母親のシャツに触って、指の匂いを嗅ぎ、その匂いをふき取ろうとする。胎児性アルコール症候群の患者の多くが精神疾患とも戦わねばならない事を知っている両親は、イヤルが統合失調症や重度の精神病に襲われる事を恐れていた。

「そちらでは胎児性アルコール依存症の子供に犬を与えてくれるでしょうか?」母親はシャークに尋ねた。

「その症状を聞いた事が無いのですが。」

その時までに、胎児性アルコール症候群全国組織のジョージア支部を立ち上げていたドニー・ウィノカーは手短で正確な説明をした。

「あなたの息子さんは犬を口汚く罵ったりしますか?」シャークは聞いた。

「あ~。はいそうです。」ドニーはゆっくりとだが、認めざるをえなかった。

「あなたの息子さんは、犬に危害を加えようとするでしょうか?」

「それは不可能です。」今回はハッキリと否定した。

「O.K.」シャークは言った。「私達には医師の診断とビデオが必要です。あなたの息子さんの毎日の様子、あらゆる場所での様子、朝起きてから、朝食を食べて、車に乗って、学校へ行って、ベッドに入るまでの様子が見たいのです。私達は息子さんがたてる音を聞いて、癇癪の様子を見なければなりません。」

「犬をくれるんですか?」ドニーは息を飲んだ。

その夜、家で、ハーベイも又、息を飲んだ。「何千ドルも犬に使うのかい?」彼は叫んだ。「保母や在宅ケアや私立の学校費じゃ無くて犬に?それって賢い選択だろうか?イヤルにとって犬は何の意味も無いかも知れないんだぞ。」

「きっとうまく行くわ。」

「盲導犬のようなベストを着た犬の話をしているんだよね。そんな犬と一緒に表を歩くのは恥ずかしく無いかい?」

「もう既にイヤルと一緒に表を歩くのは恥ずかしい事なのよ。特にモラーシャにとっては。」

「しかしベストを着た犬は、イヤルを重度の障害者に見せてしまう。」

「ベストを着た犬は、イヤルが障害と共に生きている事を人々に知らしめるのよ。」

ドニーは夫を説き伏せた。ハーベイは妻を愛していたし妻の判断を信頼してもいた。そして妻が決してあきらめない事も知っていた。

2008年1月、ドニーは自分の父親、従妹、子供達とゼニアに車で向かった。特別な介護を必要とする他の家族と一緒に、そして新しい犬と一緒に、10日間のクラスを受ける為だった。4 Pawsの駐車場に着いた家族達はそれぞれの子供を、運んだり、なだめすかしたり、引きずったり、押したり、追いかけたり、車椅子に乗せたりして、玄関まで連れて行った。以前V.F.W.のソーシャル・ホールとして使われていた訓練場所の周りには、使い古されたソファとか、窪んだ2人掛けシートとか、布張りのスポーツチェアとかが取り巻いていた。奥の部屋では、ペット用木箱とか金網とかの中で、あらゆる年齢と大きさの犬たちがいる。常時200頭の犬が訓練を受けていた。犬の散歩士とか獣医とか犬の美容師とかがドアの前をひっきりなしに通っている。建物は犬の匂いと、底流にあるアンモニアの匂いに覆われている。

自閉症とか行動に障害のある子供用の犬は、「行動障害(behavior disruption)」専門の訓練を受ける。癲癇発作や糖尿病、呼吸器障害の子供用の犬は、危機の兆候を見て両親に警告を発する訓練を受ける。中には、6時間とか24時間前に病気の発症を予見できる犬も少数ながらいる。(どうやって犬たちにそんな事が出来るのかは謎だ。)

「犬たちは判断をしません。」デュレボーンはクラスの度に言う。「あなた方の子供は鼻をほじったりしますか?犬はそれについて何も考えていません。殆どの犬がそうです。もし何か考えている犬がいたとしたら、ぜひ私に教えてください!例えば子供の姿が見つからなくなって、こう言うとします『ジェフレイを探して』。犬はジェフレイが危険だとは考えないんです。犬が考えるのは、ゲーム開始!ってことです。」

4 Pawsが与えた犬の内4%くらいが失敗する。「幾つかのケースでは、犬を飼うのに伴ってどれぐらい余分な仕事が発生するか、両親の準備ができていない為に失敗します。」シャークは言う。「そういった人達はたいてい、特別な介護が必要な子供、それに自分たち自身も、殆ど戸外に出ません。その上に犬を迎える事は、重すぎる負担と成るのです。」その他の失敗ケースは相性が悪い場合だ。家族が撮ったビデオには行動の深刻さが反映されていないかも知れない。「ビデオの中では子供が優しそうに見えるのです。それで私達は大人しい犬を与えました。」シャークは言った。「そうしたら子供の暴力で犬が怯えてしまったのです。子供を避けるようになってしまいました。」デュレボーンとシャークは顧客が、いわゆる「名犬ラッシー症候群」を持たないよう警告する。献身的で感受性豊か、かつ優秀な犬が自分たちの生活へやって来て全てを気持ちよくしてくれると言う信仰だ。

それでも時として、正にそのような事が起きる。

デュレボーンはイヤルにチャンサーをあてがった。大きくて気立てのよいゴールデン・リトリバーで、「高い自尊心」を持っている。子供から辱めを受けても傷つかないであろう犬だ。チャンサーは最初、ヤングズタウンのメルヴァー・ケンネルから、ある家族が子犬として買い求めた犬だ。その家族はチャンサーに興味を失ってしまった。チャンサーは1年後ケンネルへ戻された。太ってつやも無くなった孤独な犬だった。過去に4 Pawsがメルヴァーの犬を、成功裏に人に与える事が出来ていたので、ジュディー・メルヴァーはチャンサーを寄付する事にした。多くの4 Pawsの犬と同様、チャンサーは訓練を通じて優しさと献身を見せるようになった。しかしチャンサーは人間と長期間の友情で結ばれた経験が無かった。「犬を家族に引き合わせた後も、私達は犬を撫でたりするし愛し続けます。しかしいわば、『とても愛してる』とか『マイ・ベイビー』とか言ったような強い1対1の愛情を注ぐ事はありません。」シャークは言う。「私達は犬を、夜に一緒に家に連れて行く事はありません。私達の犬は皆、強い繋がりを求めていて、強い繋がりを持つ用意をさせられています。しかし私達はそういう強い繋がりをスタッフと持って欲しいのではありません。家族と持って欲しいのです。」チャンサーは自分に何が足りないのか知らない。しかしチャンサーの訓練士は知っている。「チャンサーは、」デュレボーンは言う。「本当に人間の男の子を必要としていた。」

犬の中に深く埋め込まれた人間と繋がりたいと言う欲望は、ウィノカー家と引合された時に命を吹き込まれた。毛むくじゃらで黄褐色の大型犬は喜びで息を切らし、尻尾を振った。人間の側でもその時、似たようなものが閃光を発したようだった。モラーシャは跪きチャンサーの首を抱きしめた。ドニーも同じことがしたかった。「ハイ、ハイ、ハイ、いい子ね。」彼女はチャンサーの大きな形の良い頭を撫でながら優しく語りかけた。イヤルは少しだけ惹かれたようだったが、直ぐに視線を逸らした。

ウィノカー家はイヤルの事で疲れ切っていた。彼は毎日、とてつもない癇癪を爆発させた。ここでも直ぐに始まった。「本当にすみません。」ドニーは恥じながら言った。最初の朝からもう、憤激した少年を、犬の訓練サークルからどかす事も出来なかった。しかし彼女は友人たちの中に居た。特別介護を要する子供の両親は皆、我慢強くイヤルの癇癪が収まるのを待ってくれた。残念なことに街中での昼食時、イヤルは再び抑えが利かなくなった。ウェンディーズのドライブ・ウェーで駄々をこねた。腕を組み腰を下ろしてわめき立てた。後ろに待っている車のドライバーは4 Pawsの両親たちよりも同情的で無い目をドニーに向けていた。シャークは言う。「イヤルは本当に犬が必要でした。」

2日目のクラスの終了時、各家族は初めて、それぞれ犬を一晩連れて帰って良いと言われた。ホテルへ帰ってから、ドニーの従妹はチャンサーを散歩に連れ出し、その間、ドニーはイヤルとモラーシャがインドアの温水プールに入るのを見ていた。「散歩から帰ってきた時、」彼女は言う。「チャンサーは辺りを見回してから、走り出したんです!私はとっさに思いました。オーマイガー、犬が逃げちゃうって。彼を失ってしまうわ。チャンサーはサンルームにいた人々の間をぬって走ると、温水プールに飛び込んだんです。イヤルを助けようとしたんですよ!」

チャンサーは水難救助の訓練など受けていなかった。何で彼が、必要も無いのに温水プールへ飛び込んだのかは判らない。シャークの考えでは、36時間一緒に過ごして、チャンサーはイヤルと繋がりを持ったのだと言う。その逆、イヤルからチャンサーへの思いはまだハッキリしていなかった。アルコールが子供に与えた損害は部分的に、感情が表に出てくるのを阻害する働きを持つ。友情とか喜び、親密さ、愛情といったものは未発達であったり、認識を阻む壁の向こうに埋められていたりする。しかし、大きな黄色い犬が空中を飛んで来て、温水プールにボチャンと飛び込んだ時の、弾けるようなイヤルの笑い声は、母親が長い間、息子から聞いた声の中でも、一番嬉しい声だった。

チャンサーがアトランタ近郊の家で初めて夜を過ごした次の朝、ウィノカー家はほとんど1999年以来初めて、一晩グッスリ眠って目覚める事が出来た。家族は互いに顔を見合わせて、半分恐怖に襲われた。イヤルはまだ生きているか?家族はイヤルが、大きなマットレスを占有する黄色い大型犬の横でスヤスヤ寝ているのを見つけた。チャンサーが家に来てから家族は夜に起こされる事がほとんど無くなった。イヤルは未だ夜中に目を覚ましているかも知れない。しかし彼は側に犬が居ることを確かめると、又眠りに落ちるようだ。

「息子がチャンサーと共に家に入った瞬間から、何かが変わった事が私にも判りました。」ハーベイは言う。「直ぐに感じ取れました。イヤルと犬、チャンサーとの間の繋がりは、この世界でさ迷っていた子供の精神と肉体にとって碇の役割をしていると。」

イヤルが苦しんでいるときは、チャンサーも苦しんでいた。そしてイヤルと違ってチャンサーは、どうしたら良いのか知っていた。イヤルが怒って腕を組み、床に尻餅をついて泣き叫び、足をバタバタさせていると、チャンサーは、組み合わされた腕の中に下から自分の鼻づらを差し込んで、腕を解きほぐす。イヤルの顔を鼻でつついて、舐めたりよだれで濡らしたりする。イヤルが泣き叫ぶのを止めて、後悔の涙を流したり、笑い出したりするまで止めない。

チャンサーは時として、癇癪が始まる前に、先手を打つ事さえある。指導員やセラピストが、ダイニング・ルームでイヤルと、少しでも長く居ると、チャンサーは2人の間に割ってはいる。明らかに、今日はこれでお仕舞い、と言っている。2階離れた場所からでも、チャンサーは何か察知すると、耳をピクッと動かして聞き入る。イヤルが爆発寸前であるのを察知すると、階段を通って彼を見つけ出す。そして頭をぶつけたり、押し倒したりする。彼の上に乗って体を伸ばし、力を抜くと満足そうに呻る。チャンサーの下に押し倒されたイヤルは抵抗したりブーブー不平を言ったりするが、やがては同じようにリラックスする。大きな犬は自分が愛している男の子の上に乗って、目まぐるしく理解しがたい世界から一時、彼を覆い隠すのだ。

チャンサーの超自然的感覚についてデュレボーンに尋ねた時、彼は言った。「私達はチャンサーに癇癪を止めさせる訓練はしました。癇癪を予防できるようになったのは、家族の中での、目に見えないトレーニングのおかげでしょう。彼はたぶん、ドニーのボディランゲージとか顔の表情とかを読んだり、あるいは何かイヤルの中の化学的変化を嗅ぎ取ったり、あるいは彼が出す音を聞き取ったりして癇癪を予知しているのかも知れません。イヤルが落ち着くとチャンサーは報われた思いがするのです。」

ドニーは言う。「最近では、たぶん今まででは一番良い事に、イヤルは苦しみ始めるとチャンサーを探すようになったんです。そしてチャンサーの側で体を丸めます。大きな前足を持ち上げてその下に入るんです。」これはおそらく、少年が自分の感情を抑制できる、直ぐ手前まで来ている事を意味するのだろう。

チャンサーが来てから2週間後、イヤルは複音節語を話すようになって、両親を戸惑わせた。彼は突如として、意見を持ち、判断を下し、重要な疑問を持ち、それを表明するようになったのだ。

「B.C.、ビフォー・チャンサー、」ドニーは言う。「チャンサーが来る前の生活を私達はそう呼びます。B.C.ではイヤルはモラーシャの言葉を逐一繰り返してました。それでモラーシャはイライラしてたんです。毎朝私は訊きます。『お昼は家で食べるの、それとも学校?』イヤルは毎朝、モラーシャの言葉をオウム返しするんです。モラーシャが『学校』と言ったらイヤルも『学校』。前頭葉の損傷でこういった決断は息子にとって難しい事なんです。A.C.のある朝、私がお昼ご飯について訊くと、モラーシャが言いました『学校』。そしたらイヤルが言ったんです。『僕は学校より家でお昼ご飯を食べたい。』私達が今まで聞いた内で一番洗練された表現でした。」

「B.C.では、イヤルとドライブに行くと、一寸でも知らない道に入ると息子は言いました『どうしたの?』。A.C.だと私が道を間違えたと感じ取ってイヤルは言います。『違う所で曲がっちゃったのは、チャンサーに気を取られたから?』この言葉は原因と結果の関係を理解していることを示しています。それに高いレベルの言葉の選択もね。」

「B.C.ではイヤルは一度も自分の障害について話した事がありません。私達は彼の障害についてちゃんと話しているのですが。A.C.では、息子は突然訊いたりします。『チャンサーのお母さんはアルコールを飲んだのかな?』とか『どうして僕の生みの親はアルコールを飲んだんだろう?』って。」

ビフォー・チャンサーの時、イヤルは「心の理論」と呼ばれる能力を持っていなかった。これは普通4歳くらいまでに獲得される能力で、他人が自分とは異なる見方をしている事を理解できる能力だ。しかしチャンサーはイヤルに考える事を即した。チャンサーは何が好きで何を欲しがっているか、あるいはチャンサーは何を考えているのかをイヤルは考え始める。イヤルが癇癪の後、きまり悪そうにしたり後悔したりするのは、犬が来た後の事だ。自分の癇癪が他人に影響を与えている事に気が付き始めた兆候だ。「チャンサーは僕に怒っているかな?」彼は両親に訊いた。「ママ、僕がチャンサーを愛してるって、言ってあげてね。いい?」

「『心の理論』の持つ悲しむべき側面は、」ドニーは言う。「イヤルが心底恐れてしまっている事です。もし自分の行動が余りにも酷いと、チャンサーは誰か他の子の犬になりたがるのではないかと。例えば公園に行った時、息子は私に言うんです。チャンサーが他の子に笑いかけていて、その子の犬に成りたがっているって。」

イヤルの認識力の急激な向上を説明する科学はいまだ初歩的な段階に留まっている。パデュー大学の動物医療学校(College of Veterinary Medicine)で人間と動物の絆を研究するセンター(Center for the Human-Animal Bond)のディレクターを務めるアラン・M・ベック(Alan M. Beck)もイヤルの認識力向上に興味を惹かれた1人だった。「子供と動物の間には真の絆が存在します。」彼は私に言った。「子供が幼いほど、動物に何が判って何が判らないと言う余計な知識無い分、邪魔するものが少ないのです。」ベックの話では、子供の70%以上が犬に放しかけていると言う。成人では48%だ。「動物からの、全く判断を伴わない反応が、子供にとって特に重要なのです。」彼は言う。「もしあなたのF.A.S.D.の子供が悪い事をしたとすると、きっとあなたの顔には咎める表情が浮かんでいるでしょう。しかし犬は全く咎めたりしません。こういった子供が常に感じている行動上の不安は、犬といる時は感じないのです。突然彼はリラックスできるようになります。自分を咎めない仲間と一緒にいるからです。」

仮説としてはイヤルの不安レベルの突然の下落、異常な警戒心の突然の減退、コルチゾール・レベルの低下と、闘争と逃走を繰り返す心理状態の解除によって、認識に使うべきエネルギーが解放され、考えたり喋ったりする事に使えるようになったと言う事だ。「障害を持った子供は犬と一緒の時、自分の考えや行動を抑えるのでは無く、より自由に感じることが出来ます。」ベックは言う。「そこには、他の誰に対してよりも高いレベルの信頼と自信が存在します。そしてそれは良い選択なのです。犬は彼の真の相談相手であり友達なのです。」

チャンサーはイヤルを治癒したわけでは無い。

「イヤルが朝目覚めた瞬間から、家の中には緊張が走ります。」ドニーは言う。「息子の神経と精神が受けた損害はチャンサーの前足では届かないほど深いのです。でもチャンサーは障害を和らげてくれました。まるで保母さんを得たようです。」

去年の秋、ウィノカー家はいつもの様に、イヤルが中学校で受けたイジメと格闘していた。「男の子の何人かが僕に、椅子とヤッテみろ(hump a chair)って言うんだ。」8年生に入って数日後、母親と心理療法士にイヤルは報告した。

「椅子とヤルですって?」ドニーは言った。「それがどんな意味か判らないんだけど。」

イヤルは立ち上がってやって見せた。

「チャンサーを見て」心理療法士がドニーに囁いた。イヤルが椅子を相手に刺激的な行為をしている間に、チャンサーは立ち上がり嘆き始めた。チャンサーはクンクン言いながらイヤルの突き出す行為を止めさせた。

別の日に、取り乱したイヤルが両親に言った話では、ある少年に言われたと言う。「あいつ(男の子)にキスしないと、お前の犬を吊るしてやるぞ。」

「これは判断力に障害を持った人々にとって古典的な事例です。」ドニーは言う。「障害を持った人々は性行為だとか犯罪とかに利用されやすいんです。こういった人々は被害者にも加害者にも成り得るんです。」しかし同時にこれは古典的なイジメでも無い。「イヤルはたぶん、この子達に付きまとったんでしょう。」ドニーは言う。「息子は心底友達を欲しがっています。でも個人の空間とか社会的な距離感とかが判らないのです。息子はたぶん、この子達をイラつかせ、こういった反応を引き出してしまったんです。」

学校の校長は直ぐに対応してくれた。教師が子供達に話をした。「でもイヤルはこの話を何回も繰り返します。」ドニーは言う。「私とハーベイには、まだイジメが起きているのか、それともイヤルがこのトラウマに囚われているのか判断は出来ません。過去、現在、未来と言う概念はイヤルの心ではゴッチャに成っているんです。」

チャンサーはイヤルの学校についてゆく事は出来ない。イヤルはチャンサーの手綱を持つことが出来ないのだ。「息子はチャンサーを1ブロック散歩させることも出来ません。」ドニーは言う。「手綱を落としてしまうんです。そうするとチャンサーはハンバーガーを追いかけても良いんだって解釈するでしょう。チャンサーは驚くべき介助犬ですが、犬で有る事に変わりありません。そして肉が大好きなんです。」

もしイヤルがチャンサーに間違った事や危険な事をさせようとしたら、あるいは向こう見ずな行為をしようとしたら、チャンサーは自分達が制限を破ろうとしていると認識するだろうか?チャンサーはイヤルに反抗するだろうか?「犬はベストを身につけると個性が変わるんです。」ドニーは言う。「自分が仕事中だって判るんです。介助犬の世界ではこれをハロー効果(halo effect)と呼んでいます。例えば盲導犬は危険な状況における「知的反抗」を訓練されます。信号を守る時とかがそうです。しかし私には犬が良い事と悪い事の間に理由を持っているかどうかは判りません。」

過去において、イヤルが直面する危険と、彼を取り巻く人々の気遣いは、何倍にも大きくなってきた。イヤルが母親を不適切なときに触ろうとする回数は増大している。今までのように、自分達が校長を呼び出すのでは無く、逆に校長室に呼び出される日が直ぐにも来るとウィノカー家は恐れている。「ハーベイと私は、まるで火山の上に座っているような気分です。」ドニーは言う。「イヤルは13歳ですが、認識力も感情の動きも社会性も8歳の子供のレベルです。その差はこれからもっと広がります。彼は自分の同世代にキャッチアップする事はありません。関係者以外で、「神経的無能力(neurological noncompetence)」と「意図的不服従(behavioral noncompliance)」の違いが見分けられる人はいません。別の言葉で言えば、イヤルは自己のベストを尽くしているのです。」

イヤルは運転ができるようにはならないだろう。定職にも就けないだろう。お金とか時間の概念も理解できない。専門家の話では、思春期から成人への変化はF.A.S.D.の患者にとって特別困難なものであると言う。そしてチャンサーも永遠に側に居てくれるわけでは無い。ウィノカー家では、命ある限り、4 Pawsの犬達がイヤルの側に居てくれる事を望んでいる。今では彼らはチャンサー無しの生活は考えられない。

チャンサーはイヤルが認識力に障害を持っていることなど知らない。チャンサーが知っているのはイヤルが自分の男の子だと言う事だけだ。チャンサーはイヤルを愛している。それは家族が提供できる以上の無条件の愛情だ。チャンサーはイヤルにがっかりしたり、恥ずかしがったりする事は無い。認識力に問題があろうが無かろうが関係ない。明るい未来が見込めようが、惨めな未来しか見え無かろうが関係ない。あなたは時々、芝生のグラウンドや、固めた土のグラウンドの上を、2人がそろって走り、無我夢中に笑って、途方も無く幸福な時間を過ごしているのを見かけるだろう。ただの少年と犬として。

~~ここまで~~

次回更新は3月17日ごろになると思います。
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Author:ゾノシン
英語の勉強の為に、ニュースサイトの記事を読んでいるうちに、面白さにつられて翻訳してみようと言う無謀な事を始めました。大変なので更新は一週間に一回位になると思います。どこまで続けられるか解かりませんが。

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