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ブレード・ランナー、オスカー・ピストリウス

スポーツ関連の記事をUpします。

記事を書いたのはマイケル・ソコロフ(Michael Sokolove)さんです。元記事はここにあります。

両足義足のスプリンター、オスカー・ピストリウス(Oscar Pistorius)さんの記事です。

~~ここから~~

オスカー・ピストリウスの高速人生

オスカー・ピストリウスは、自分のトレーナーの自宅に設けられたガレージを改造したジムでトレーニングする。トレーナーは元プロラグビー選手だ。鉄製のプルアップ・バーや種々のロープ、それに滑車がレンガの壁にボルト付されている。フリー・ウェイトが床に並べられ、釘打ちした木箱と一緒に並んでいる。その木箱はステップ・アップとかスタンディング・ジャンプとかに使うものだ。幾つかの器具はガレージの外壁に取り付けられている。屋根なしのパティオ(中庭)の反対側だ。雨が降ってもアスリート達はトレーニングを続けるので、ずぶ濡れになる。「古臭いやり方さ。」ピストリウスは、早朝、私と共に車でそこに向う道すがらそう言った。「あそこでトレーニングする何人かは、やり過ぎて庭で気持ちが悪くなったりするんだ。誰も注意して無いからね。」

2011年12月、私は南アフリカのプレトリア(Pretoria)へ行きピストリウスを訪ねた。彼は25年前プレトリアで生まれた。生まれながらに両足とも腓骨が無かった。(腓骨は膝と踵の間、脛骨の横にある骨だ。)両親は医者の勧めに従って、膝から下の足を切断する事に同意した。生後11か月の時、両足は切断された。13カ月の時、義足が取り付けられ、17カ月で彼は歩き始める。今彼は400メーター走者として世界トップランクにあり、2012、この夏のロンドン・オリンピックを目指している。もし彼がこの目標を達成すれば、生来の生物学的足を持たない人間でオリンピックの競走に参加する初めての人と成る。もし彼が南アフリカ代表として4×400メーターリレーに出て、そしてもし100と200の世界記録保持者ウサイン・ボルト(Usain Bolt)が、ピストリウスの望むようにジャマイカ代表として同じ4×400に出場すれば、ファイナルは夏のオリンピック最大の見せ場と成るだろう。

メディア上でピストリウスはしばしば、ブレード・ランナーとして紹介される。彼が競技の時に使うJ型カーボンファイバー製義足の為だ。彼は又、「足の無い最速の男」とも呼ばれる。こういったニックネームは彼の例外性を際立たせる。まるで競技場の他の選手と分けておくことが重要であるかのように。ジョンズ・ホプキンズ大学のバーマン生命倫理学研究所(Berman Institute of Bioethics)は、ピストリウスが恐らく「ポスト・ヒューマン分野のパイオニア」であろうと推定した。ポスト・ヒューマン分野なる言葉がどのような意味をもとうともだ。どんな価値があるか判らないが、南アフリカの雑誌はピストリウスを国内で最もセクシーな有名人に任命した。

ピストリウスが走る時使う義足、アイスランドの会社が製作したフレックス・フット・チーターズ(Flex-Foot Cheetahs)は議論の的と成った。彼は自分を競技から除こうとする者達と戦わねばならなくなる。しかし1990年代後半以降、チーターズで走った両足の無い選手たちの内、ピストリウスの400メーターベストタイム、45.07秒に近づけた者は1人もいない。

その朝、私がピストリウスのトレーニングを見学していた時、彼は普通のプラスチック製義足を付けていた。生物学的な足の形を真似たもので、走る時以外のあらゆる活動と日常生活で彼が付けている物だ。90分間、彼はロープに取り付けられた輪っかを掴みながら、プルアップ、プッシュアップ、シットアップを続けた。彼はまるで体操選手のようだった。これらの訓練は体幹の強化を目指しているもののように見えた。下肢に神経も筋肉も無く、膝から上だけで全ての動きをしなければならないランナーには特に必要なものだ。2フィートの高さの箱に飛び乗る彼の訓練を見て、感銘を受けたと口にした私は、直ぐに後悔させられる事になった。「これはそんなに高いわけでは無いよ。」彼は言った。「僕はもっと高くとべるさ。」

ワークアウトの終り近く、ピストリウスはボクシングのグローブを付けた。そしてミットを肩の位置に構えるトレーナーのジェニー・ブルックス(Jannie Brooks)へパンチの集中砲火を浴びせた。彼は慣れているように見えた。それもそうだろう。ボクシングは彼が競技する多くのスポーツの1つなのだから。他にも彼はレスリング、ウォーターポロ、ラグビー、モトクロスをしている。ブルックスは私に、ピストリウスが高校の時から一緒にトレーニングをしていると話した。「彼は友達と一緒にトレーニング場を探しに来たんです。」ブルックスは回想した。「彼は集団の中の1人に過ぎませんでした。私が彼の下肢が無い事に気が付いたのは6ヵ月後の事でした。」

ピストリウスは3人兄弟の真ん中で、兄と妹がいる。自分の家族は別に金持ちじゃ無いと彼は言ったが、彼は南アフリカでも裕福な家庭の出身だ。そして彼の認識は、ピストリウス一族の他のメンバーが極めて豊かである為に、若干歪められている。南アフリカでの彼の系図は5世代さかのぼれる。先祖はスイスからの移民だった。彼は家では英語を話すが、長年共に過ごしたトラック・コーチやマネージャーとはアフリカーンス語で話す。アフリカーンス語はオランダ移民の言葉で、1994年に廃止されたアパルトヘイトも、アフリカーンス語の言葉だ。彼は南アフリカ黒人と、彼らの母語で片言の挨拶をする。あるいはセキュリティー・ゲートで(南アフリカには沢山のゲートがある)車の窓ガラスを降ろし、手を伸ばして門番に言う「やあ兄弟、調子はどうだい?」。

ピストリウスがどの様な安息を子供時代に得ていたにせよ、それは家族のトラウマで断絶されている。両親は彼が6歳の時、離婚した。彼が15歳の時、母親は子宮摘出手術後の薬物反応で死んだ。父親は岬の東にドロマイト鉱山を持っているが、彼とはあまり接触が無い。ピストリウスは母親について、好んで人に話す物語を持っている。幼いころの記憶だ。ある朝、外出の準備をした彼は、兄のカールと遊んでいた。学校でガイダンス・カウンセラーをしていた母は、兄に向って言った。「靴を履きなさい。」そして母はオスカーに向けて言った。「貴方は脚を付けてってね。僕が一番聞きたく無い言葉だった。」

とても大勢の人々が、障害を克服したピストリウスを応援したいと思っている。そうでない人は彼のレースを見て、彼が不当なアドバンテージを得ていると思っている。両足が無い人のみが得られるアドバンテージだ。彼の物語は、私達がどの様にしてこの世界に生まれ出でたかという問題に関わる、あらゆる種類の哲学的問いを投げかける。私達が何処に生まれて、どのような身体的、精神的、感情的な恵みを与えられたのかに基づいた、アドバンテージとディスアドバンテージが入り組んだ問題だ。ある意味彼は大変な損失を抱えている。生まれながらに足が無い。しかし彼は同時に、富者と貧者の間に息を飲むような相違がある国に生まれた。もし彼が悪い側、彼の国の多くの同胞が未だその中で生活している惨めな貧困の中に生まれていたら、自分の不運を克服するだけのリソースに恵まれたとは想像し難い。

ピストリウスは又、あまり一般的で無い気質を持って生まれた。最大限のスピードと最小限の警戒で世界を捉えようとする、激しくも熱狂的な渇望だ。それはアスリートの気質でもある。自分自身に対するある種の信仰、身体的世界でのプリンスだ。

ピストリウスと一緒に居るのは、とても楽しい事でもある。一緒にいると彼が単なる変わり者では無い事に直ぐ気が付くだろう。私は彼の左肩にある入れ墨について尋ねた。聖書のコリント人への手紙から取った一節だ。「私は闇雲に走る人のようには走らない(I do not run like a man running aimlessly)」。ニューヨークに行った時に彫ってもらったんだと彼は言った。その時、ソーホーのホテルに泊まっていた彼は寝つけなかった。それで地下鉄でアップタウンに行き、ぶらついた。「そしたらオールナイトのタトゥー・パーラーがあったんだ」彼は言う。「プエルトリコ人がやっていたよ。午前2時から8時半頃までかかった。あいつ少し居眠りしていたと思う。だから下の方が少し乱れているんだ。でもそれが気に入っているんだよね。そのおかげで、僕には本物らしく見えるから。」

2008年、ピストリウスは、ヨハネスブルグの南の河で半分沈んでいる桟橋にボートをぶつけた事がある。顔と体を舵輪にぶつけて、肋骨を2本に顎と眼窩を骨折した。医者は彼の顔を172針縫わねばならなかった。最近も高い草が生い茂った場所でダート・バイクに乗っていてフェンスをなぎ倒した。振り返ったら、有刺鉄線に義足がぶら下がっていた。もちろん気持ちの良い景色では無いが、もし本当の足だったらもっと大変だった。義足の足で良かったと思える数少ない経験の内の1つだと彼は言う。

ピストリウスの周りの人は彼の向う見ずさを心配する。それでもあまり他人に出来る事は無い。彼のマネージャー、ピート・ヴァン・ジル(Peet van Zyl)は、私の質問に肩をすくめた。「男が持って生まれた性質と言うやつさ。」彼は言った。「少なくとも私達は彼からモーターバイクを取り上げたけどね。」

ピストリウスは身体的障害以外にも目に見えない部分で他の仲間とは違っている。彼のレベルの多くのアスリート達は、一つの目的の為に自分のエネルギーを貯えようとする。彼らはトレーニングをし、食事をして眠る。何人かは長々とした昼寝を含んで日に12時間、まるで幼子のように眠る。その結果少し鈍い少年だったり少女になったりする。あるいは、彼らが狭い分野に集中できるのは、最初から少し鈍いからかも知れない。

しかいピストリウスは、その心も体も簡単には休もうとしない。時として彼は自分の寝室からテレビを持ち出す。朝まで映画を見ないようにする為だ。夜にテキストメッセージを送らないように自分の電話をプログラムしている。それでも彼は明け方まで読書していたりする。「僕はだいたい午後8時にはベッドに入って午前7時までは出てこない」彼は言った。「でも実際に寝ているのはその半分ぐらいなんだ。」

主にヨーロッパで行われる、春から夏にかけての競技シーズンはピストリウスにとってつらい季節だ。「サーキットに出ている間、朝は、起きて、食べて、ストレッチするだけさ。」彼は言った。「部屋に帰ったらテレビの連続物を見たり、昼寝しようとするんだ。昼食を食べたらまたストレッチしたり、氷風呂に入ったりする、そして又部屋に戻るんだ。とても退屈だよ。僕は6時間インターネットしたりする。ただグーグルしたり、馬鹿げたユーチューブを見たりしてね。」

ピストリウスは南アフリカで色々な種類のビジネスと関わっている。その多くは一風変わったビジネスだ。(ピストリウスは年間100万ドル以上の収入がある。大部分は競技会主催者が払うコマーシャル収入とか出演料とかだ。)彼は6頭のサラブレッド競走馬を持っている。フェラーリ・ディーラーとパートナー契約を結んでいる。2頭のアフリカ・ホワイト・タイガーを持っていて鳥獣保護区で飼っていたが、400ポンドに育ってしまい、もう遊びに行っても癒されなくなってしまったのでカナダの動物園へ売却した。「本当に美しい動物だった。だけど少し大きくなり過ぎたんだ。」彼は説明した。

彼と一緒にいたある日のこと、その日は南アフリカの夏、12月中旬にしては寒くて雨が降っている日だった。ピストリウスは朝の激しいワークアウトを一通り終わらせて、記事に載せる為の、時間のかかるフォト・セッションをこなしていた。彼はまだ毎日2回やるトレーニングセッションの2番目、プレトリア大学のトラックで午後遅くにするトレーニングを残していた。その大学は、彼が学士号取得の為に、ゆっくりと勉強を続けている大学でもある。その日、彼は何時もより疲れてイライラしていた。彼は家へ帰って昼食を食べないかと私を誘った。彼は昼食の後、テレビをみてソファーで昼寝をするつもりだったようだ。私は彼の車、ニッサンGTRの助手席に乗った。私は既に彼のドライビング・スタイルには慣れていた。もっとも完全に落ち着いていられるわけでは無い。最初に彼の車に乗った時、スピードメーターを覗き見たら時速250キロ(時速155マイル)出ていた。人々は彼の車(彼のマネージャーが言うところの「ホワイト・モンスター」)のまわるに集まってくる。そのアイドリング音を聞く為だ。

「この車、雨の時はどうだい?」私は訊いた。道には水たまりが出来ていて、私は滑って人事不省に成る事を恐れていた。「良いよ。」彼はアクセルを踏みながら言った。私の頭はヘッドレストへ押しつけられた。「重い車だから滑り難いさ。タイヤはこのコンディションにベストでは無いけどね。」

私達は彼の家へ戻った。彼の家は丘の中腹のゲーテド・コミュニティにある地中海風の家だ。3頭の犬が出迎えてくれた。広々とした家で、ダイニングルームには16人が座れるテーブルがある。リビングの本棚は殆ど伝記で埋められていた。マンデラ、マーレイ、ディラン、ベッカム、サルバドール・ダリ、スティーブ・ジョブズ。他にもバーニー・マドフ・スキャンダルの記事とか、膨大な数のラグビーとレーシングの雑誌が置いてある。

ピストリウスは高校時代からの友人と一緒に暮らしている。アルバイトで総合格闘技の選手をしているエンジニアの男だ。ピストリウスは長年付き合った彼女と別れたばかりだが、その時、既に他の若い女性が訪ねて来ていた。彼は昼食の準備をしながら、(冷蔵庫から、フルーツ・スムージー(果物をミキサーにかけたもの)とブレッデッド・チキン・フィレ(鳥フィレ肉のカツ)を出しながら)昨晩セキュリティー・アラームが鳴った話をした。銃を掴んで忍び足で二階から降りてみたが、何も無かったそうだ。

私が、どんな銃を持っているのか彼に訊くと、彼は私が銃に興味を持っていると思ったようだ。私は銃を持ってないと答えねばならなかった。「でも撃ったことはあるんだろう?もちろん」実際の話、私は撃ったことも無かった。突然私は、映画の中でもっと男らしくしろと教えを受けている登場人物のような気分に成った。

「シューティングレンジに行かなきゃいかんな。」彼は言った。彼は自分の9ミリ口径拳銃と弾薬を二箱持った。私達は車に戻り、近くにある射撃練習場へ行った。そこで私は彼から基本的な手ほどきを受けた。ピストリウスは良いコーチだった。私が撃った弾の内2発が中心点近くに当たると彼は喜んだ。「もっと練習した方が良いと思う。」彼は言った。「もっと練習すれば、きっと素晴らしく上手くなるよ。」私は彼に、どのくらい頻繁に来ているのか訊いた。「眠れない時に何回か来るだけさ。」彼は言った。

「私達の考えでは、オスカーはミュータントさ。」マサチューセッツ工科大学(M.I.T.)バイオテクノロジー・グループのディレクター、ヒュー・ヘラン(Hugh Herr)は言った。少し前に私がケンブリッジを訪れた時の事だ。「彼は変種(freak)だ。全くの変種さ。」

「ミュータント」だとか「変種」と言う言葉を生まれながらに障害を持つ人間に使うことに、私は一瞬怯んだ。しかしヘランが言おうとしているのは、ピストリウスが他の多くの並々ならぬアスリートと同じだと言う事だ。例えばマイケル・フェルプスとかカール・ルイスとかレブロン・ジェイムズのように。一般の人間には見られない身体的恵みを授けられている人々の事を意味している。

47歳のヘランはピストリウスの重要な支援者だ。彼はペンシルベニア州ランカスターでメノ派教徒(Mennonite)の家で育った。「どちらかと言うと意欲満々の冒険主義な人間だった。」彼は言う。彼は数ヶ月に亘る遠征を何回もしている。8歳の時、11,000フィートのカナディアン・ロッキー頂上に登った。17歳の時、友人とニュー・ハンプシャーの氷の峡谷を登っていて嵐に見舞われた。彼はそこで3日間氷点下の中で過す。その時、凍傷に罹った足は膝から下で切断された。「あの事件が無かったらこんな事して無かっただろうね。」彼は言った。「私は学会に興味無かったんだ。唯一の目標は世界最高のクライマーになる事だった。」

2008年、トラック競技とフィールド競技のルールを決める団体、国際陸上競技連盟(International Association of Athletics Federations:I.A.A.F.)は、ピストリウスのチーター・ブレードが競技上のアドバンテージを与えているとして、彼を健常者の大会から締め出した。ヘランは、ピストリウスの弁護団と共にI.A.A.F.に抗議する研究者チームの一員だった。ピストリウスを、ヒューストンのライス大学で1週間かけてテストした。そしてスイスのローザンヌで開かれたスポーツ仲裁裁判所でピストリウスの為に証言する。裁判の投票の結果、I.A.A.F.の決定は覆された。

ヘランは必ずしもピストリウスにとって理想的な支援者とは言えない。彼が思い描く生物学的未来、体に埋め込んだマイクロチップに導かれバッテリーパワーで駆動される能力を増強された人類と言うものは、オリンピック運動が進みたい方向では無い。彼は私に研究所を見せてくれた。「私達のパーツ墓場さ。」彼は研究所をそう呼んだ。そこはまるで自動車の解体部品店のようだった。ただし部品は人工の踵とか膝とか肘とか股関節だ。そしてそれらは未来的な部品でもある。関節は小型モーターとマイクロプロセッサーを持っている。彼が発明した内で最高のものは、アフガニスタンやイラクで四肢を失った合衆国兵士へ送られる。それも組み立てられるや直ぐにだ。「M.I.T.の私の研究所では多くの者が、自然が意図する以上の能力を人間に与える試みをしている。

しかしながら、最先端の人工四肢をデザインする彼の立場から見れば、ピストリウスは古い器具を使って走っている。ヘランは、権威を持ってそう言える立場にある。もう市場に20年も出回っているローテク器具だ。チーターはもちろん「普通の」義足には見えない。しかし考えてみて欲しい。筋肉も腱も靭帯も神経も無いのに、どうして足を切断した人が走るのに使う最高の物が、足のように見える物でなければならないのか?

「オスカーの義足は鈍い。」ヘランは言った。「神経コマンドを受け付けない。何のフィードバックも返さない。バイオニック(生体工学)な足では無い。遥かに劣ったものだ。私の定義ではバイオニックとは何らかの生理学的機能をエミュレートするものでなければならない。」彼の話では、チーターで走るとは、「マットレスの上で走るようなものさ。すごくきつい。何の利点も無い。」

その時私は不思議に思った。ピストリウスはどうやって陸上競技の国際大会で最高位のレベルへ上がることが出来たのだろうと。去年の世界陸上400メーターでセミファイナルまで行き、ロンドンへ出場する寸前まで来ている。よちよち歩きの頃から義足をつけているのは、他の足を切断した人に比べて、アドバンテージとなるのだろうか?彼が新しい神経接続を作り出したなんて事は無いだろうか?彼のカーボンファイバー製の脚を、ほとんど継ぎ目なく筋肉や骨と繋がっているかのように、より上手くコントロールする為、脳から新しい接続が出来ていないだろうか?

ヘランは注意深く回答した。「そんな研究は行われた事が無いね。四肢を失った年齢と運動能力の関係なんて研究は。」彼は言った。「彼はとても幼いときに脚を失った、故に生理的適応に長い時間をかけられたのは明らかだ。従って、足を切断した人の間では、彼のようなケースは明らかなアドバンテージだと仮定できると思う。」

ピストリウスが健常者相手に競技する為に通り抜けた道のり、何故彼は締め出されて、何故その禁止事項は撤廃されたのか、を理解する事は、スプリントのメカニズムの理解を助けてくれるだろう。世界で最も早く走る人間は、最も激しく地面を蹴る。彼らの足は、一回当たり10分の1秒そこそこの全ての接触において、走行面と強く接触する。ひとたびモメンタムが築き上げられれば、ランナーは殆ど走っていると言うより飛んでいるに近い。重要なファクターはどれだけ足を早く動かせるかと言うより、体重に応じてどれだけ強い力を、地面に加えられるかと言うところにある。

ピストリウスは、健常者が自分の足で走る時にするように、接触の前にチーター・ブレードを硬くする事が出来ない。チーター・ブレードは柔らかい為、走行面により長い時間接触している。彼はその穴埋めをする為に、他の多くのワールド・クラス・ランナーに比べて、寄り早いレートで足を動かしている。「彼の尻は、とても、とても巨大なエンジンさ。」ピストリウスがどうやってそんなに早く足を動かせるのか聞かれて、ヘランはそう答えた。

2004年のパラリンピック、T44部門、片足膝下切断選手を含む部門で金メダルを獲得してから、ピストリウスは南アフリカの国内大会では健常者選手と競技してきた。そこでの成功で彼はヨーロッパの競技会へ招待された。

しかし2007年、I.A.A.F.は新たなルールを導入した。表面的にはピストリウスに向けたルールでは無く、スプリングを使ったランニング・シューズのテクノロジーに関連したものだ。そして今度は世界で最も卓越した障害選手へと目を向ける。I.A.A.F.はピストリウスが出場したレースを記録し、科学アドバイザーと共に解析した。数週間後、ピストリウスはケルンのドイツ・スポーツ大学で、I.A.A.F.が選んだ研究者によるテストを受ける。そして同組織はテストで発見されたことに基づき、彼に出場資格が無いと宣言した。テストでは、彼の「弾力的な」運動はアドバンテージになる事、および彼が、同じスピードで走る健常者より、少ない酸素とカロリーしか必要としない事が発見されたと言う。

国際ルールに従うアスリートは、証明されない限り無罪として扱われる容疑者と同様、競技資格に問題があると言うもっともな理由が提示されない限り競技資格があると見なされる。従ってピストリウスは、指摘を受けるまで、自分が能力を増強されていないと証明する必要は無かった。

仲裁裁判所へ訴えた時、ピストリウスの代理人を努めたのはジェフリー・ケスラー(Jeffrey Kessler)だった。マンハッタンに住む法律家で、N.F.L.やN.B.A.の選手を代表して団体協約交渉をした事で合衆国では有名な人物だ。ケスラーはI.A.A.F.の申し立てを粉砕した。それは余り困難なことでは無かっただろう。「全部が全くナンセンスだった。」ヘランはI.A.A.F.の決定について言った。ヒューストンでピストリウスをテストしたチームの1人、南メソジスト大学の応用生理学とバイオメカニックスの教授、ピーター・ウェイヤンド(Peter Weyand)は別の言い方をした。「彼らは間違った科学的事実を出してきたんだ。」彼は私にそう言った。

3人の仲裁者が一致して下した裁定には、ライス大学でピストリウスから集めたデータは彼が「同じ量の酸素」を消費し、「通常の疲労」を示したと書かれている。裁定はI.A.A.F.が、ピストリウスが得ているかもしれないアドバンテージを追い求める余り、彼のディスアドバンテージを無視していると批判した。例えば、彼が他の競技者と同じような爆発的スタートが出来ず、ゆっくりとしかスタート出来ない事などを無視していると。彼の参加資格について正しく計るには、彼がレースを通して、「全体的な正味のアドバンテージ(overall net advantage)」を得ているかどうかを計らねばならないと書かれている。チーター・ブレードがスプリングであるかどうかについては、「人間の足はそれ自体スプリングだ」と裁定者は書いた。報告書はI.A.A.F.のプロセスそのものについて最も批判的だった。プロセスは「レールを逸脱」したと。殆どI.A.A.F.がカンガルー・コート(リンチ裁判)をしたと言わんばかりだった。

裁定はピストリウスについての疑問を決定的に沈静させた。1点を除いては。彼の科学者チーム内の亀裂、ヘランとウェイヤンドが対立する亀裂だ。両者は、どのような結果になろうとも、研究成果を科学雑誌に発表できることを理解したうえで、彼を研究する事に同意した。その研究成果はThe Journal of Applied Physiology(応用生理学ジャーナル)2009年9月号に発表された。「The Fastest Runner on Artificial Legs:Different Limbs, Similar Function?(人工脚の最速ランナー、異なる四肢、同じ機能?)」と題された記事で、ピストリウスは、「自然な足のランナーと生理学的に類似している。しかしメカニック的には異なっている」と結論付けられている。

この2番目の結論、つまりは義足を持った人間は普通の足を持った人間と異なる走り方をすると言う結論は、取り立てて驚くべき事では無いように見える。しかし記事は、この相違がもたらすより大きな影響について述べていない。何故ならヘランとウェイヤンドは、特定の事について述べない事でのみ、共同執筆できているからだ。

最初の記事が公開されてからウェイヤンドは、ピストリウスがアドバンテージを得ていると、発言している。現実的なアドバンテージだ。彼が取り上げたものは、I.A.A.F.がピストリウスを資格不適格とした理由には含まれていない。実質的に彼に対する「告発(charges)」
には入っていないのだ。従ってピストリウスの法律家、科学者のチームは彼を支持する申し立ての中で、この問題を反証する必要が無かった。ウェイヤンドの主張の基本線を理解するのは難しくない。チーター・ブレードは軽い。約5.4ポンドだ。それに対しピストリウスの体型の人間が生来持つ脚は約12.6ポンドする。その結果、彼の「スウィング・タイム」、どのぐらい素早く脚を動かせるかと言うタイムは、異常に早い。「全く文字通りに生物学的チャートを外れている。」とウェイヤンド(彼はローザンヌでは証言していない)は、応用生理学ジャーナルで、ヘランとのポイント-カウンターポイント・ディベートで述べている。

ウェイヤンドと彼の同僚、モンタナ大学のマシュー・バンドル(Matthew Bundle)、最初のジャーナル記事の7人の著者の1人は、この論点を去年さらに展開している。「ピストリウス氏は彼の軽量な人工脚を0.28秒で動かすことが出来る。それ故に自然な脚のアスリートより20%速く動かせる」彼はそのように書いた。「ピストリウス氏のスウィング・タイムがいかに人工的であるかを計る為に、5人の100メーター世界記録保持者(ベン・ジョンソン、カール・ルイス、モーリス・グリーン、ティム・モンゴメリー、ジャスティン・ガトリン)の平均的脚移動時間(limb-repositioning time)をあげると、0.34秒である。ピストリウス氏の脚移動時間は、人類史上最速の男性スピリンター5人より15.7%速いことになる。」

ウェイヤンドとバンドルの主張の中で最も挑発的な部分、そして明らかにピストリウスにとって最大の侮辱は、チーター・ブレードが400メーターの長さ、あるいは競技場1周の間に11.9秒のアドバンテージを彼に与えていると言う計算だ。もしそうであると、彼は普通の高校生ランナーと大差無い事になる。ヘランはこれを「封筒の裏でやったような雑な」計算だとして却下している。そしてポイント-カウンターポイント上に、最初の記事の著者4人もサインした投稿記事をあげて質問している。「はたして、ウェイヤンドとバンドルは、世界記録保持者のマイケル・ジョンソンが両足を切断したら、31秒で走れるとでも言うのだろうか?」

ウェイヤンドが私に話してくれたところでは、彼はピストリウスをたいへん尊敬しているし、その業績に敬意を払っていると言う。私は彼に尋ねた。彼は実際に、ピストリウスがもし義足で補強されて無ければ400メーターを57秒で走るランナーであると主張しているのかどうか。別の言葉で言えば、どんな国際レベルの健常者にも対抗できない選手であると考えているのかと。「短い答えではイエスです。」彼は言った。「私が見る限りそれが科学的真実です。」

しかしウェイランドの計算は想像上のアスリートで構成されている。同じピストリウスではあっても、生物学的な脚を持った存在を想定しているのだ。そんな想定が可能なのかどうか私には不思議だった。「それは正しい質問ですね。」彼は言った。「多くの人が言うでしょう。そんな想定は不可能だ。何故なら五体満足なピストリアスなどいないのだから。しかし私達には充分な規模のデータベースがあります。他のスプリンター達の充分な歴史的データです。そのデータを元にすれば、もし彼が生来の脚をもっていたら、今のような速さではスウィングできないことが言えるのです。」

ヘランとウェイヤンドは、もう何十年間もお互いを知っているが、幾つかの技術的な、しかし重要なポイントで意見が分かれている。例えばヘランはアメリカ人スプリンター、ウォルター・ディックス(Walter Dix)、2008年オリンピックのメダリストのスウィング・タイムを計り、ピストリウスより速いとし、ピストリウスが生物学的チャートから外れているという主張に対する反論とした。ウェイヤンドはそれに対し、ヘランの計測は北京オリンピックのテレビ画像を使ったためにそうなったのだと反論する。よりハイスピードの研究レベル・クウォリティーのビデオ画像を使えば、ディックスは通常範囲に収まると主張する。

ヘランとウェイランドの主張は他の観点では更に異なる。ヘランはピストリウスを、ウェイヤンドよりも大きな文化的コンテキストの中で見るのを好む。「我々の社会では、身体的強さや美しさを、とても狭いセンスの中で考えるように習慣付けられている。」ヘランは私がM.I.T.を訪ねた時、そう言った。「女性は特定の容姿をしていなければいけない。頭の良い人はこういう風に見えなければいけない。完全なアスリート体型と教えられてきた姿の選手達をピストリウスが破るのを人々が見た時、脳の中で困惑が生まれるのさ。そして直ぐにこう考える。『彼があんなにすごいはずが無い。あの人工脚のせいに違いない』ってね。」

ヘランは科学者であると同時にデザイナーであり、それに伴い美学に深い興味を持っている。彼のゴールは義足を作ること、それも「余りにもセクシーなので怖いほどのやつだ。ウォルター・リード病院のやつらが、あんまりクールなんでやりたくなっちまうよと、考えるようなやつさ。」

広い分野に関心を持つ彼は、ピストリウスに関連するような科学的に狭い分野には、しばしば困惑を巻き起こす。彼はスポーツにおいては、テクノロジーを取り締まるルールが必要である事を理解している。しかし制限を設けることに彼はあまり興味が無い。「今世紀中に私達は、パラリンピックのランニング・タイムやジャンプの高さが、オリンピックを凌駕する時点を迎えるだろう。」ヘランは私との会話の終わり近くにそう言った。「パラリンピックはテクノロジーの進歩を押し留めたりしない。従って、これから起きる事態は、パラリンピックが自動車レースのようなヒューマン・マシーン・スポーツになると言う事さ。そうなったら自然な人間の体はとても退屈なものに見えるだろう。」

ピストリウスが昨夏の世界陸上韓国大会に出場できるタイムを出した時、彼のスポンサーの1つ、フランスの香水メーカー、ティエリー・ミュグレー(Thierry Mugler)はタイムズ・スクエアのビッグ・スクリーンに巨大な彼の画像を出して祝辞を表した。彼は他にも数社とコマーシャル契約を結んでいる。その中に含まれるのは、オークリー・サングラス、チーター・ブレードを作っているオズール、そして(もちろん)ナイキだ。彼はいまや故郷の南アフリカを越えた大物になっている。しかし私は彼がそれらしく振舞うところを見たことが無い。

私が最初にピストリウスと会ったのはケープタウンだった。彼の故郷から飛行機で2時間ほど離れている。彼はビヨンド・スポーツ(Beyond Sport)の年次会議に出席する為に来ていた。ビヨンド・スポーツは、スポーツの力で社会的問題に立ち向かおうとする組織だ。彼はホテルのロビーに立って、貧困地区への、いわゆる「サイト訪問」を待っていた。しかし早朝のウェイク・アップ・コールの後、私達のバスの護衛に当たる人たちが来ず、彼は1時間以上待たされた。高名なアメリカ人アスリートと、しばしの間過ごしながら、私はピストリウスが癇癪を爆発させるものと思っていた。しかし彼は驚くほど平然としていた。「どうもありがとう。」誰かに飲料水ボトルを持ってきましょうと言われて、彼は答えている。

最終的に訪問はスタートした。私達が到着したのはカエリチャ(Khayelitsha)、街の中でも低い一帯で、ブリキ屋根の小屋が立ち並ぶ迷路のような場所、凹んだり崩れかかったりした建物が互いに折り重なる、約50万人が住む場所だ。ピストリウスは人工芝のグラウンドへ出た。非営利団体が、サッカーと共にライフ・スキルを教える為に建てた新たな施設だ。彼は土地のローカル・メディア向けに少し話した後、走って行って、近隣の子供達を集めてやっているサッカーの練習に入った。そして立ち去る時間が来たとき、心底がっかりしているように見えた。出発の為にバスに乗った時、バスの窓から写真を撮っていた。「こういった場所が無い振りをする事は出来ない。」私が見ているのに気が付いた彼はそう言った。

次の日、私はピストリウスがプレトリア大学のトラックを走っているのを見ていた。そこはここ数年、彼がニャング・トークモア・ニョンガニ(Young Talkmore Nyongni)、オリンピックに2回出場した400メーターのジンバブエ代表選手と共にトレーニングしている場所だ。2人の男はアンピー・ロウ(Ampie Louw)にコーチを受けている。アンピー・ロウは40年間ランナーを、健常者も障害者も両方ともトレーニングしてきた、好々爺のような風貌の人物だ。「障害者のトレーニングは楽しいよ。」彼は私に言った。「とても技術を必要とする。しかし最終的にはレースは同じさ。オスカーがアドバンテージを得ているなんて思っている人々が居る。全く馬鹿げているさ。そういった人は彼が被る不利益を見てない。スターティング・ブロックに立つ為だけに費やす3ヶ月の闘いを見てない。」

チーター・ブレードは走ることを目的に作られていて、他の目的は無い。ピストリウスがそれを着けている時、最初に気が付くのは、バランスが良くない事だ。立ったまま、座る場所を探しているときなど、体が揺れている。アイススケートを履いてリンクへ出たばかりの人間のようだ。ランニング・トラックは長円形をしている。ピストリウスが、真っ直ぐなコースのほうが曲がったコースよりタイムが良いのは、うなずける話だ。

私がロウと話している間、ピストリウスは300メーターランニング9本のセットをニョンガと併走しながらこなしていた。「彼をよく見ておくんだね。」ロウは言った。「両足の無い選手があれほど早く走るのは、2度と見られないだろう。」何故ピストリウスがあれほど速く走れるのか、彼に尋ねた。「彼は脚を速く動かせる。それが出来れば君だって速く走れるさ。とても単純だ。だけど何故かを言おうとすると単純じゃなくなる。何故、同じような体を持つ他の選手よりウサイン・ボルトは速いんだと思う?」

ピストリウスの競技シーズンは始まろうとしていた。それは2月に始まる。彼のミッションは明確だ。オリンピックA標準タイム、400メーター45:30より速く走る事だ。そして同時に、ロンドン・オリンピック出場権を得るため、南アフリカ最速の3人に入る事。南アフリカにはオリンピック・トライヤルは無い。チームは、オリンピックまでに行われる競技会のタイムで選ばれる。

南アフリカの強力な400メーターの中心選手達はこの挑戦を困難なものにしている。しかし彼は昨夏の世界陸上でそれを通り抜け、個人競技と4×400リレーに代表チームの1員として参加している。ピストリウスは予選タイムをクリアできなくてもリレーに選ばれるかも知れない。しかし彼はその道を考えていない。「僕は自分の力で切符を手にしたいんだ。」その日の午後、トレーニング場から去る時、彼は言った。「今考えているのは、それだけさ。」

ピストリウスに関わる科学的、文化的質問は簡単には答えられない。スポーツをフェアのものにする1つの道は、全ての選手を同じ条件にする事だ。それだと彼は確実に出場資格を失う。他の道は、「機能拡張」がスポーツの聖域を犯すのを防ぐ道だ。そかしその境界線は、極端な話、穴だらけであり、それを私達は認識すらしていない。

例えば、世界で最も人気のあるスポーツの最も偉大なプレーヤー、ライオネル・メッシ(Lionel Messi)は、故郷のアルゼンチンで将来を約束されたプレーヤーだったが、背が小さかった。彼は13歳の時、スペインに移住し、有名なクラブ、バルセロナのユース・アカデミーに入る。同クラブは、彼の成長ホルモン分泌不全症に対する治療費を払った。このような増強が無かった場合、果たしてメッシは、単なる日曜午後のリクリエーション・サッカーの脅威で無く、世界最高のサッカー・プレーヤーに成れただろうか?

ヘランは言う。スポーツをもっと公平にする道は、「より多くのテクノロジーを投入する事だ。少なくでは無い。」しかしそれはピストリウスに対する答えにはならない。何故なら、自分の足を人工のものに代えたいと思う者など何処にもいないからだ。ヘランがどんなにクールでセクシーな義足を作ったとしてもだ。

ピストリウスは自分自身を「スポーツマン」だと言う。私達はある日の午後、彼のリビングルームに座っていた。彼は自分の参加資格について、ある種自分を再発見する話として語っていた。トラックに彼が出ることは、他の競技者に対してフェアと言えるのか?「僕の目的は全ての人に向かって『見てくれ、僕にはアドバンテージなんて無い』と言う事じゃ無いんだ。」彼は言った。「僕自身が実際、『僕はアドバンテージを得ているのか?』を知りたいのさ。何故なら、僕は自分の才能とハード・ワークでは無くて、身につけた器具の力で出ていると感じるスポーツで、競技したくは無いからね。」

ピストリウスは、パラリンピックで競技する事を誇りに思っていると強調する。しかし彼は、健常者の大会に出ることは、400メーターを同じチーター・ブレードで走る障害アスリート達に対する彼の大きな優越性の強力な証明であると信じている。「彼らは単に、そこらへんの道に居る脚に義足をつけてるやつらじゃ無い。」彼は言った。「何人かは、脚を切断する前、トップアスリートだった。何人かはパラリンピックと共に成長してきた。僕と同じようにジムで鍛えてトラックに出てきた人間達だ。ハード・コア・アスリートさ。しかし彼らが僕に近いタイムで走る事は無いと思う。」

ピストリウスの犬達、イングリッシュ・ブル・テリアと、とても従順なアメリカン・ピット・ブル、それにダックスフンドのミックスが、彼の足元に居た。私と話をする間、彼は犬達にチュートイを投げたりしている。私は、今年の彼の目標を尋ねた。そして、彼の目標がそんなに高く無い事を知って少し驚いた。彼はロンドンの400メーター決勝へ出ることを目標にしている。前に出場した世界陸上では準決勝で敗退している。「僕はゴールへ到達できると思う。自分の夢をつかめると思うんだ。」彼は言った。「僕のゴールは決勝へ進んで順位を上げることさ。僕は全ての重要なレースに出たいと思う。振り返った時、酷いレースをしたなんて思いたくない。このレベルではもう、出て行って44秒台前半のタイムを出して、今日このタイムを出せたのは強く思っていたからだなんて言うようにはならない。そんな事はもう起こりえないんだ。」

たぶんそれは真実だろう。しかしなお、ピストリウスのような向こう見ずな人間からそんな話を聞くとは驚きだった。私は彼の考えに自己防衛的な要素が無いかどうか、いぶかしんだ。彼がもし自分の言うゴールにたどり着くだけならば、彼の大きな報酬はそのまま続くだろう。大勢の人に好かれ、尊敬されるだろう。彼の良い暮らしは更に良くなるだろう。しかし若し彼が奇跡を起こし、表彰台に立つような事になれば、それが巻き起こす議論は終わることが無いだろう。

彼は2本の足を持つ人間を破る事に特別なスリルを味わう事など無いと私に言った。そうする事は自分の障害にこだわり続ける事である。「そんなものは乗り越えなければならないのさ。」彼は言った。「どんな人だってつまづきを持っている。僕も例外じゃ無い。僕はたまたま脚が無いのさ。それがまあ事実なのさ。」それならスターティング・ブロックにつく時、彼は何を考えるのだろう?「僕は単に自分の心が正しい位置におさまるように努める。それでこのレースで何がしたいのか考える。どんな風に走りたいのかね。」彼は言った。「そしたら蹴って走り出すのさ。」

~~ここまで~~

次回更新は4月27日ごろになると思います。
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Author:ゾノシン
英語の勉強の為に、ニュースサイトの記事を読んでいるうちに、面白さにつられて翻訳してみようと言う無謀な事を始めました。大変なので更新は一週間に一回位になると思います。どこまで続けられるか解かりませんが。

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