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オバマ選挙運動とビッグ・データ

大統領選挙とビッグ・データに関連した記事をUpします。

記事を書いたのはジム・ルーテンバーグ(Jim Rutenberg)さんです。元記事はここにあります。

オバマの選挙運動チームが、選挙運動で培った技術でビジネスを始める記事です。

~~ここから~~

信じるに足るデータ

今年の初め、バラク・オバマ大統領選挙チームのシニア・メンバーは、ラス・ベガスを訪れた。ネヴァダ州は熱狂的オバマファンにとって特別な場所だ。ヒラリー・クリントンを相手にした何ヶ月もの選挙戦で、少しずつ確実に支持が広がりつつあるのが判明した場所なのだ。しかし選挙運動員が3月に訪れたのは、いかなる政治的理由とは関係が無い。彼らがラス・ベガスへ出かけたのは金儲けのためだ。彼らは自分たちの新しい広告ビジネス、アナリティックス・メディア・グループ(Analytics Media group:A.M.G.)の最初の企業顧客がみつけられるのではないかとの希望の元にやってきた。同社の名前は、この会社が持つ比較的大きな可能性を見えにくくしているかも知れない。この会社は、オバマ選挙運動が獲得した幾つかの秘密、有権者へ訴求する上での技術的に進んだ方法を商業広告向けに提供しようと言うのだ。

顧客候補と考えていたのはシーザーズ(Caesars)だった。このカジノ・チェーンは準常連客を、もっと定期的に国内各地のカジノへ呼び寄せる方法を、そして常連客を新たに出現した競争相手から守る方法を探していた。A.M.G.は、ギャンブラーにシーザーズを引き続き贔屓させるのは、オバマに一度投票した有権者がミット・ロムニーに流れてゆくのを防ぐのと、本質的に全く違わないと売り込んだ。そういったものは全て、自分たちのメッセージを如何にして正しい顧客に正しいタイミングで届けるかという問題なのだ。オバマのストラテジストの間では、自分たちが話している「チェンジ」が、「信頼するに足る」ものと言うよりも、言わばやってみても損は無いと思える程度のものにしか見えないということは意識されていた。「僕は自分が、ひどく口うるさい嫌な奴に見えるだろうって感じてたよ。」選挙期間中、民主党のメディア分析ディレクターをしていて、現在A.M.G.のチーフ・オペラーティング・オフィサーであるチャウンシー・マクリーン(Chauncey McLean)は、皮肉っぽく私にそう言った。

A.M.G.は昨年12月、長年オバマのアドバイザーを務めていた一群の人間たちが分離して設立した。設立メンバーは、選挙運動で広告費の支出を統括していたラリー・グリソレーノ(Larry Grisolano)。そしてダイレクト・メールでグリソレーノのパートナーをしていたテリー・ワルシュ(Terry Walsh)とピート・ジャングレコ(Pete Giangreco)。アイオワ州出身の経験豊富なテランで2012年は外部アドバイザーだったジェフ・リンク(Jeff Link)。そして2012年選挙運動で広告コンサルタントだったエリック・スミスだ。エリック・スミスは2004年選挙でケリーを応援した外部グループの中でも、最大のグループの1つを運営したことがあり、そのときの経験で企業世界の中の党献金者たちと繋がりを持っていた。

マクリーンは彼らが最初に雇った人間だ。選挙運動中彼は、「メッセージ」とか「物語」とかを話している政界の古株たちと、「コード」とか「アルゴリズム」とかを話している20代のクオンツたちとの間の通訳をしていて、その仕事に非常に長けていることを証明していた。

マクリーンは2004年、オバマの党大会演説に感激した1人だ。赤い州のアメリカとか青い州のアメリカとかを止めにしようと呼びかけた演説だ。2008年にオバマが大統領選出馬を決めた時、彼は法科大学をやめて選挙運動に加わった。彼は過去18ヶ月に及ぶ2012年大統領選挙で、ワシントンのカウチとシカゴの小さな共同アパートの間を行ったり来たりしながら過ごした。シカゴのアパートでは、同僚がダイニングルームで寝ていた。だからベガスの豪華さからは、かなりのカルチャーショックを受けていたようだ。

ファースト・クラスの飛行機(人生2番目の経験だった)を降りてシーザーズ・パレスに着いた彼は、部屋へ通された。「ドアを開けたら、この大きさなんだ。まるで倍さ。壁から壁まである窓からは大通りが見下ろせるし、馬鹿でかいキングサイズのベッドがあるし。」彼は言った。ルームサービスを食べながら、彼は自分の補佐役で26歳のクリス・フロムマン(Chris Frommann)と会い、自分達の提案の最終見直しをした。マクリーンは自分が食べてる宮保鶏丁(ゴンバオジーディン:kang pao checken)の写真をiPhoneで撮ると、ブルックリンにいる妻に送った。「僕が何をやり遂げたか見せようと思ってさ。」彼は冗談でそう言った。

翌朝、マクリーン、フロムマン、グリソレーノ、スミス、他2名の一行は、迷路のようなドアを抜けて、大理石とガラスで出来たカジノのエグゼクティブ・オフィスへと案内された。その場で行われた会合は十分成功裏に進み、さらに細部を話し合うために別の会議をスケジュールすることにこぎ着けた。その夜遅く彼らは、シーザーズの高級ステーキハウス、オールド・ホームステッドで、赤ワインとステーキのディナーを食べながら祝った。

3月のある日、あちこちにマックブック・プロが点在するブルックリンのコーヒーショップでベガスへの旅行を振り返りながら、マクリーンは、オバマを売ることからシーザーズを売ることへシフトするのは、小さな居心地の悪さでしか無く、選挙運動で開発した技術的進歩を使って働き続けることを望むなら、必要なことなんだと言った。大統領選挙が無い年には、実質的に「巨大なR&Dプロジェクト」であったと言うオバマの選挙運動のような活動を続ける資金は、非政治的分野からしか得られない。そのようなプロジェクトのリソースは今のところアメリカ企業社会からでなければ手に入らない。もし、大きな資金を持つ企業が、何であれオバマのチームが大統領のためにしたことを自分たちの為にもして欲しいと思っているのなら、マクリーンはその呼びかけに答えない理由は無いと考えている。

政治のマーケティングは通常、企業のマーケティングよりも遅れている。1年で数十億ドル費やして何十億ドルもの利益を得る方法を開発する企業は、本質的に1日だけのセールに向けたスタートアップでしかない大統領選挙から何かを学ぼうなんてことはしない。しかし2012年における大統領のリセール作業は、全く異なったものだった。オバマの選挙運動は、急発展中の学問分野である、分析および行動の科学から、最も優れた若者たちをリクルートし、彼らが自分たちで言うところの「洞窟(the cave)」と呼ばれる部屋に集めた。彼らは、約16ヶ月の間、1日16時間そこで過ごしたのだ。選挙が終わって、このテクノロジーの魔術師たちが、とうとう地上へ姿を現したとき、彼らは一連の非常に高い効率性を持ったマーケティング技術を開発していた。それらは、完全に新しいもの、もしくは、このように大きな規模では今まで試みられたことが無いものであった。

グリソレーノとマクリーン、および他数名は、選挙資金の約50%にあたる4億ドル超の資金を費したテレビ広告購入分野における、一つのブレークスルーを成し遂げたチームの一員だ。以前の選挙運動においては、テレビ広告予算をどのように振り分けるかは主に、自分たちがねらいを定める有権者が見ていると思うチャンネルを、直感とか推測に基づいて選んでいた。彼らは、ニールセンやその他の調査会社が提供する広範囲の視聴率データを元に選択していて、それは、イブニング・ニュースとかプライム・タイムといった比較的高価な時間帯の広告を購入するという結果になりがちだった。2012年の選挙運動は先進的なセットトップ・ボックス・モニター技術のおかげで、ねらいとする選挙民がどの番組を、いつ見ているかがより明確になり、その結果として有権者の家庭へ向けて、より賢明で安価な、そしてより影響力が強いと思われる方法で広告を放つことができた。このシステムは、ミット・ロムニーに対する重要な優位性をオバマに与えたと、多くの民主党員、および共和党員が(少なくともロムニーのメディア・チーム以外の人間が)言っている。今、A.M.G.の設立者たちは主張している。同社は、今や年間600億ドルに成長したテレビ広告市場が、その草創期から使い続けている方法を、ひっくり返す動きの最前線にあるのだと。そして彼らは自分たちがそのプロセスでとてもリッチになれると思っている。

以上のようなことが、グリソレーノがクリスマス直前に作り始めた、売り込み文句の内容だ。彼は選挙運動中に使ったシステムの再構築の為に、雇わねばならないテクノロジーの名手たちに向けてこの売り込みを作った。彼はまた、やはりオバマの選挙運動から人をリクルートしようと考えているフェイス・ブックやグーグルに対抗して、彼らがオファーしているのと同等の報酬を、給与とか利益の共有でもってオファーした。

「君たちはこの最先端の何ものかに、言って見れば巻き込まれている。そして地平線の向こうでは全てのものが変わりつつあるんだ。」グリセリーノは皆を前にそう言ったのを思い返す。「これってすごく興奮しないか。」

マクリーンは予め彼の話を知らされていた1人だった。昨年秋、選挙に勝利した後、彼はオバマの革新的選挙マネージャーであり熱烈なテクノリジー推進者でもあるジム・メッシーナ(Jim Messina)に、これから何をやれば良いか聞いた。マクリーンの話すところでは、そしてメッシーナもそう話したことを認めているが、メッシーナはこう話した言う。「どこか地方に行って別の選挙運動をやるか、大金を儲けるかのどっちかだな。」

投票日の2週間前、シカゴのゴールド・コーストにあるパンプ・ルームで、すなわち再選運動本部とそこにいる記者の集団から充分離れた場所で、グリソレーノと、エリック・スミスは酒を飲みながら、シカゴ選挙事務所では自分たち全ての人間の理解を超える凄いことがおきていると、初めて口に出した。グリソレーノは私に言った。選挙運動事務局はオバマに投票するよう説得すべき国内の浮動票の人々を、文字通り一人々々、名前、住所、人種、性別、収入を含めて知っていると。それ以上に、選挙運動事務局は、どうやってテレビ・コマーシャルを彼らの目の前に出すかを、以前は考えもできなかったほどの知識と正確さで把握していると、ほのめかした。

粗野で頑健なアイオワ人のグリソレーノは、自分のメンターでありオバマの最初からのストラテジスト、デイビッド・アクセルロッド(David Axelrod)の裏方を何年もの間、喜んで務めてきた。しかし今、彼は自分自身の名前を売り出したいと思い始めている。そして彼が見つけ出した何ものかは、選挙後に大金を稼ぎだすだろうと彼が信じていることは間違いなかった。彼はそれ以上口を開かなかった。少なくともその時点では。しかし選挙が終了し、年が明けて2月になった時、彼は自分の新しいベンチャー・ビジネスを詳しく私に聞かせてくれた。

それがどういう風に働くか理解するためにはまず、巨大な技術的エンジンを理解しなければならない。そのエンジンは選挙運動に力を与えたものだが、一般大衆やメディアには、ほとんど見えていないものだ。選挙マネージャーのメッシーナはしばしば豪語した。2012年オバマ選挙運動は、「かつてないほど強力にデータに駆動された選挙運動だ」と。しかしそれが真に意味するもの、選挙運動が最新のテクノロジーを使ってどの程度まで人々の生活を把握しているのかとか、膨大なサーバー群が解析した個人データの真の規模とかは、依然として隠されたままだ。その活動が秘密にされたのは、大統領のストラテジストが自分たちの競争優位を維持したいと望んだことが理由の1つではあるだろう。しかし、「データ・マイニング」だとか「分析論(analytics)」だとか言う言葉が、有権者を不安に陥れると心配されたことも理由の1つであることは疑問の余地が無い。

データを使うことはオバマ・チームのストラテジストにとって新しいことでは無い。2008年の選挙運動では、数千万の有権者を特定し、有意なカテゴリーに分類すると言う、当時最も洗練されたシステムを開発した。そのシステムは、ほとんど必ず共和党へ投票すると思われる人々は除き、オバマを支持している人々を、その投票可能性に従って分類していた。この膨大なデータ処理を元にした複雑なスコアリング・メソッドを基本とするシステムは最初、外部コンサルタントのケン・ストラスマ(Ken Strasma)によって作り出された。しかし選挙運動事務局の中では、そのシステムは当時24歳だった経済予測家(economics forecaster)ダン・ワグナー(Dan Wagner)が管理していて、彼はそれを選挙で使う間に、もっと完璧なものへと仕上げた。ワグナーはA.M.G.に誘われたが自分でベンチャーを立ち上げることを選択した人物だ。ワグナーは見たところ2つの領域に生息しているように見える。一つはデジタルの領域で、そこでの彼は、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズのダンジョン・マスターであるかのように行動し、自分が生み出した仮想現実世界のルールを築き上げようとする(「僕はレベル14の魔法使いみたいなものなのさ」彼は冗談めかしてファンタジー・ロールプレイング・ゲームであるかのように言った)。もう一つは肉体を持った領域で、この領域の彼は自分の恋愛体験とかを自虐的に語る(「や~、僕はビッグ・データやってるんだ」彼は言う)。2008年選挙運動での彼の働きは、サシャ・イッセンバーグ(Sasha Issenberg)が書いた本、「The Victory Lab(勝利研究所)」に描写されている。「僕が載っているのは『Victory Lab』のこの部分さ、なんやかやって書いてあるだろ」5月のある日、マンハッタンにあるエース・ホテルの朝食の場で彼にあった時、彼は私が持っていた本のページを開き、あまり興味なさそうにそう言った。

ワグナーは、政治活動と聞いて直ぐに思い浮かべる「ロマンチックな作戦司令室」による運営なるものを、時代遅れで見当違いだと言って否定する。彼のやり方はハード・データ・システムであり、定義上軽量不可能なものはなんであれ排除する。ブッシュの時代、ストラテジストたちは、如何にして車だとかスポーツだとかの好みを元に有権者の行動を予測したか、自慢したものだった。今や広く知られている、政治家やジャーナリストのイマジネーションを刺激する政治的魔法の断片だ。ワグナーのアプローチは、現在の政治の世界の大きな動きの一部でもあるが、そういったもの全てを切って捨てる。有権者に直接電話して彼らの傾向を訊くだけの時間と金がある時に、なんだってそんな推測にこだわる必要がある?「僕たちは政治的選好を予測しようとしているんだ。どんな車を買うかじゃ無い。」ワグナーは軽蔑するかのようにそう言った。

選挙運動で1億5千万登録有権者すべてに電話をかけることができないのは明らかだ。しかし彼らは、スウィング・ステート(接戦州)だけなら、充分な数の有権者に電話できる(一晩約11,000人だ)。そして、その人たち、および近所に住む同じような外見で同じような収入の人たちが、誰に投票しそうかを、かなり高い精度で明らかにすることができる。2008年にワグナーと彼の少人数のチームは、こういった電話取材による情報と、何であれ目に留まったあらゆるデータ、世論調査データとか州の有権者リストとかいったデータとを組み合わせ、それを一定のアルゴリズムで処理し、支持スコアを作り出した。あるスコアは、スウィング・ステートの有権者がオバマを支持する可能性を0から100までの範囲でランク付けした。そして別のスコアはそういった有権者が投票所に現れる可能性をランク付けした。こういったスコアは選挙運動が正しい有権者にリソースを振り分けるのを助けた。そしてオバマはジョン・マケイン(John McCain)を7%引き離して破った。

しかし経済がメルトダウンするなか、4年後を見据える彼のストラテジストたちは、大統領が執務室に入る前から、すでに再選は簡単なものでは無いと想像していた。ワグナーは民主党全国委員会の本部へ回され、より大きなコンピュータ・サーバーと、投票権を有する国内の人口に関するより質の高いデータと、そしてより正確なアルゴリズムを使って、自分の解析システムをさらに洗練されたバージョンにするべく開発を始めた。

このシステムに対し何らかの疑念があったとしても、その疑念は2010年、エドワード・M・ケネディーの死去で合衆国上院に空いた議席を埋めるマサチューセッツ州特別選挙で払われた。選挙期間中の世論調査では、ほとんどいつでも民主党候補マーサ・コークレイ(Martha Coakley)がリードしていた。ワグナーと彼のグループは独自の数字を持っていて、その数字はマーサへの支持が弱く、落ちてきていることを示していた。彼の警告は大統領まで上がっていたが、数人のストラテジストが彼を否定した。まるで僕が「馬鹿な子供」であるかのようにね、とワグナーは私に言った。

コークレイが敗北しワグナーの方法が実証された後、民主党はワグナーたちの部門に資金を注ぎ込んだ。彼の部門は2人から15人に増員された。そして、その年の終わり頃、ワグナーのチームはプロトタイプを開発する。メッシーナが「進化論的飛躍」だと言うところの、強固で信頼性の高い新しいスコア、「説得スコア(persuation score)」を開発したのだ。そのスコアは、未だどちらに投票するか決めて無い有権者一人々々が、選挙においてどれくらい簡単に民主党へ投票する、あるいは反対側へ投票するよう説得できるかを見極めるものだった。何回か繰り返す電話インタビューの中で、有権者が自分の選好をどれくらいシフトさせているかを元にして算出している。

2011年にメッシーナがオバマ再選運動を始めた時、かれはワグナーに前進命令を与え、彼のチームを4倍近くに増員した。チームはシカゴのプルーデンシャル・センターにある広々としたオフィスへ移動する。彼の解析部門は、すぐさまこの類のものとしては国内最大級のものとなった。

側近の話では、オバマはこの考えを支持したと言う。しかしオバマは又、初期のころのある会議で、データに深入りし過ぎること、そして「サラミを薄く切り過ぎること」への反対を表明したと、彼のコミュニケーション・ディレクター、ダン・ファイファー(Dan Pheiffer)が私に言った。

オフィスが開いて直ぐ、ワグナーのグループは隔離された窓の無い部屋に移動した。洞窟だ。メッシーナの話では、彼はメンバーに、時間の観念を完全に忘れて集中することを求めたと言う。ワグナーは又、この仕事の秘密を要する性質に言及している。私はトイレを探しながら、知らないうちに洞窟に近づいたことがある。若い報道担当官が追いかけてきて、私を遠ざけた(その場所は台所にも近かったので、その時の私は、報道官が心配したのは、残された腐った果物から私が何かメタファーを無理やり引き出そうとするんじゃないかとか、そんなことだろうと思っていた)。

「どんな奴でも、子供のときにコンピュータと地下室があった人間なら、洞窟に夢を感じると思うよ。」ワグナーは私にそういった。その場所には40余りの机が詰め込まれている。その数はワグナーがスタッフを集めて開いた「最適に床面積を利用するプラン」を競うコンテストを通して決定された。受賞したのは、「誰かにぶつからずに腕を動かせる範囲は6インチ以内という条件の下に導きだされた一人当たり床面積の最適なコンビネーション」だったと彼は言う。彼のチームは扉の向こう側に、外を通る人間の会話の断片を書いた紙切れを貼り付けている。「ここの人たちは変なんで入らないほうがいい」とか、「ここは秘密の場所なんだ」とかいった会話だ。ある壁には火星の表面が印刷された大きな紙が張られている。ペギー・ヌーナン(Peggy Noonan)がウォール・ストリート・ジャーナルのコラムで、ワグナーの仕事を「火星人がやっている政治」と説明したのを引用した悪ふざけだ。

事実として、ワグナーが仕事を通して組み立てたチームには、ハーバードの肝細胞研究所で働いていた生命物理学者に、3人のプロフェッショナル・ポーカー・プレーヤーが含まれている。洞窟の住人は、外のメイン・オフィスにある卓球台で仲間と息抜きをした。カリフォルニア大学バークレー校のビジネス・スクールを卒業した23歳のデータ・アナリスト、ゴーラブ・シロール(Gaurav Shirole)は、A.M.G.にも参加している人物だが、非常に卓球が上手かったので、夏に大統領が選挙事務所を訪ねたとき、スタッフがオバマの対戦相手として送り出したのはシロールだった(シロールは勝ったが、Tシャツにサンダルで大統領と対戦したので、写真を見た母親に叱られた)。

しかし真実として、彼らの仕事はやっかいなものだった。メッシーナがシカゴのオフィスを開いて直ぐ、大統領の世論調査官(national pollster)ジョエル・ベネンソン(Joel Benenson)は「ベンチマーク」調査を実施して、かんばしくない結果を得た。2008年オバマが得た票の大体5分の1が浮動票へ移動している。「彼ら全員を取り戻すことができないのは判っていた」ベネソンは言う。しかし選挙運動によって彼らのうち数百万人を取り戻さなければならない。そして彼らが正確に何者であるのかを、その男性、あるいは女性、一人々々について明らかにし、0から10の範囲の説得スコアにランク付けするのは、ワグナーの仕事だった。

洞窟の住人たちがその仕事を始めようとしていた頃、アクセンチュア・ラボから来た35歳のリサーチ科学者でデジタル解析チームのライッド・ガーニ(Rayid Ghani)が一つのアイデアを思いついた。フェイス・ブックのページで自らサポーターだと言っている人たちを通して、最も説得しやすい有権者として選挙運動のリストに載せられそうな人間たちを集めるのはどうだろう。そしたら選挙事務所は、自らサポーターを自称する彼らに、まだ誰に投票するか決めてない友人たちを連れてくるよう頼むのだ。彼らが持つ技術なら、友人たちに投票登録を即したり、期日前投票やボランディアや寄付を即したりと言ったことも、サポーターを通してできるのではないか。

説得できる友人たちを特定することは重要な仕事になっていった。「僕らはそれを、何も無いところから作り上げなければならなかったんだ。何故ってそんなものはどこにも存在しなかったからね。」ガーニが私にそう言った。コンピュータ・コードだけでも何千行にもなったと、25歳のウィル・サンクレール(Will St.Clair)は言う。彼はこのコードの作成を助けた人物で、現在マクリーンと共にA.M.G.で働いている。

その時点では選挙運動事務局は、どのようにフェイス・ブックを使うかについて、あまり細かく考えてはいなかった。しかし、私が4月にブルックリンのウィリアムズバーグにあるA.M.G.の仮事務所でサンクレールに会った時、彼はそれを簡潔な言葉で説明してくれた。彼らは、ファイス・ブックを通して選挙ウェブサイトでサインした人々のリスト、既に100万名に膨れ上がっていたリストから始めている。人々が選挙ウェブサイトでサインするとプロンプト画面が表示され、彼らの友人リスト、および写真や個人情報を、選挙事務局がスキャンする許可を求めてくる。別のプロンプト画面では、ユーザーのファイス・ブック・ニュース・フィードへのアクセス許可を選挙事務局は求めている。そういった許可を断るのは大体25%くらいだったと言う。

ひとたび許可が得られたら、選挙事務局は数百万の名前と顔写真にアクセスできるようになる。それを自分たちの持つ、説得可能な有権者のリストとか、寄付する可能性のある人のリストとか、未登録有権者のリストとか、そういった数々のリストと引き合わせることができるようになるのだ。「友人リストを有権者リストと引き合わせるのは5秒から10秒程度で済むんだ」サンクレールは言った。既存のリストと一致するのは、だいたい50%くらいだったと言う。しかし、選挙事務局の最終的なゴールは、大統領に対する選好が揺らいでいる有権者に対し、その人の友人のなかから、最も親しくて、かつオバマを支持する人間を通して説得してもらうことだ。「僕たちは最も活動的な50人を選び出して、その人たちの外壁をなぞったんだ、」そして彼らの友人たちの中で、単なるフェイス・ブック上の知り合いではない実生活の友人は誰かを明らかにしようとした。高校のときマーチング・バンドのメンバーをしていて、今は革のディーゼル・ジャケットを着ているサンクレールは説明する。「僕たちは写真を見せてくれと頼んだ。でも本当に見たかったのは一緒に写真に写っている人間なんだ。これは大学時代の古い友人たちをすくい取る、とても有効なやり方だ。それとか前のガールフレンドとかをね。」彼は言った。

選挙事務局のフェイス・ブックに対する過剰なアクセスは、サイト内部の保安機構からの反応を引き出した。「僕らがやったことは、彼らのエンジニアが想定してなかったり、知らなかったりした警報を鳴らして回るということだったんだ。」サンクレールは言った。彼はシカゴの小さな会社で働いていた人物で、友人の勧めで選挙運動に参加していた。「フェイス・ブックの人間たちはため息をついて言ったよ、『11月7日にきっぱりと止めてくれるんだったら、それまでは続けていいよ』ってね。」(フェイス・ブックの担当者によれば、警報が鳴るのは、膨大な量の普通でない活動が検出された時だと言う。しかし同社は、個別のケースに関して、選挙運動がプライバシーやデータに関する同社の取り決めに違反していないことを確認して満足したと言う。)

2012年3月までにワグナーのチームは、スウィング・ステートに住む合計で約1500万人の最も説得可能と思われる有権者に関する使用可能なリストを作り上げた。メッシーナは主要な努力をこれらの人々を取り戻すことに向けるよう、選挙運動事務局に命じた。もし必要なら一人々々に働きかけてでもだ。彼らはリストの多くの者にフェイス・ブックの友人を通してたどり着くことができた。そして、そうできない者にはより伝統的な方法、例えばe-mailとか扉をノックするとかしてたどり着いた。しかしオバマの選挙事務局は如何にして、より目標に合致した技術的に優秀な運動を、テレビの上で展開したのだろうか?

インターネット、特にソーシャル・ネットワーク・メディアは政治を根本から変えたかも知れない。しかし人々を憤激させたり駆り立てたりする上で、依然として良くできたテレビ広告以上に力を持つものは無い(「ロムニーの47%発言」を見てみて欲しい)。それは部分的にビデオが持つ感情に働きかける性質によるもので、インターネットを通してもそれは伝わって行く。しかし又別の理由として、テレビ広告は、人々が特別に最も受動的な時、カウチに座ってぼんやりしている時、リラックスして防御を下ろしている時に、目の前に現れるからでもある。

テレビ広告は歴史的に言って、最も高価でありかつ、有権者へ届くには最も効率の悪い広告だった。テレビ広告は今でも、ウォルター・クロンカイト(Walter Cronkite)を見に毎晩人々が集まっていた時代と、ほとんど同じやり方で値段がつけられ、売られている。ほとんどの広告は、ニールセン・メディア・リサーチがつけている視聴率に基づいている。その視聴率はニールセンによると、アメリカのテレビを視聴する人口を完全に代表するように選ばれた全国22,000世帯に対する調査と、より小さな、地方マーケットの調査から導き出されている。ニールセンは、これらの世帯のどの特定のメンバーが実際の時間に見ているのか「ピープル・メーターズ」を通してモニターし、幾つかのケースでは参加家族の日記もつけている。そして、どの人口統計上のグループがどの番組を見ているか広告主に説明する上で、ニールセンは実際、根拠のある良い仕事をしている。ニールセンのレーティング・カテゴリーは依然として「18歳から49歳の成人」として知られる幅広い視聴者集団で占められている。もっともその中には、「18歳近辺の女性」とか「ヒスパニック」などの、より小さなグループも含まれてはいる。例えばもしレブロン(Revlon)が最新の暗色系口紅を売ろうとしたら、同社は「Grey’s Anatomy(グレイズ・アナトミー 恋の解剖学)」のような番組を通して多くの女性に訴えなければならないと知っている。もし、ミラー・ライト(Miller Lite)が、その輝く青い缶を、ビールに最適の時間に若い男たちの前に出したいと思うなら、同社は、「Jimmy Kimmel Live」にスポットを差し挟めば良いと知っている。

政治活動は、ほとんどの広告をニュース番組の途中に入れる傾向がある。そこでなら、その日のトピックに興味を持つ年配の視聴者に訴求できる。あるいはより重要な理由として、投票する確立の高い人々に訴求できる。もし世論調査者が、候補が訴求したいと思う別の膨大なグループ、例えば女性とか若い男性とかを特定したら、選挙運動としては別の番組に賭けるかも知れない。伝統的に選挙運動が「使う道具というものは、こういったものだった」とグリソレーノはシカゴのオフィスで私に言った。オフィスの外ではLトラインが轟音を立ててレールの上を走って行った。「膨大な包括的グループに対して過剰な、あるいは過小な広告プログラムを組んでいたのさ。」

広告プログラムが改善されるにつれ、そして全ての主要なマーケッターが進歩するにつれ、自分たちが話したい相手を正確に特定できるようになり、古いモデルは次第に効率が悪いものに見えるようになってきた。例えば、選挙運動では、無党派層(independent:独立系)および女性の類型に入る有権者の内、まだ投票先を決めていない有権者の5%を勝ち取る必要がある。しかしこういった人々をカテゴリー分けしたレーティングはどこにも無く、こういった人々がどの番組を見ているのか知る正確な方法も無い。「Grey’s Anatomy」の中の広告を通して、選挙運動がこういった有権者の何人かに訴求することはできるだろう、しかし、この番組の時間を買うとなると、実際には候補が話しかける必要の無い人々を大勢含んでいる膨大な視聴者を相手に、巨額の資金を使うことになってしまう。

2012年のオバマ選挙運動は、自分たちが特別効率的にテレビ広告の時間を買わねばならないことを知っていた。なぜなら、ロムニーの選挙運動とそのスーパーPACがあわせて持っている資金力に対し、自分たちが劣っていると自覚していたからだ。ロムニー側のスーパーPACには、カール・ローブ(Karl Rove)が共同設立者となっているアメリカン・クロスロードという組織も含まれていた。

「もし資金力が劣る状態で対抗しなければならないなら、そんな中で対抗したい人は居ないだろうが、もしやらなければならないのなら、我々は、既に投票先を決めてしまった人々、我々に投票するのであれ相手に投票するのであれ、心を決めてしまった人々に対する支出で負けるのは受け入れなければならないだろう。」グリソレーノは言った。「でも我々は境界線に居るスウィング・ボーターに対しては、全力を挙げて資金を使うことを、確実にしなければならない。だから私の仕事は、それを現実にするツールをどうやって作るか、と言うものだったんだ。」

グリソレーノの手元には、今までのどんな大統領アドバイザーも持っていないものが一つだけあった。ワグナーが作った説得可能有権者1500万人分のリストだ。しかし彼には、テレビの上で現実的正確さの元に彼らに訴求するにはどうすれば良いのか、知るすべが無かった。彼は2年前会ったことがある若い政治科学者、アミー・ゲルシュコフ(Amy Gershkoff)を訪ねた。それは彼女が丁度このような問題に取り組んで有名になる前だった。30歳のゲルシュコフはプリンストン大学で博士号を取っていて、政治広告をより効率的に購入するソフトウェアを開発していた。ゲルシュコフはニールセン・データを深く掘り下げ、党の投票者リストと照合し、普通のテレビ視聴者で無くキーとなる投票者集団が何を見ているかを読み取ろうとした。彼女は、例えばケーブル・チャンネルのライフタイム(Lifetime)のような番組の方が、より高価で視聴者数の多い「ジ・オフィス(The Office)」のような番組よりも、そういった人々により密度濃く少ない資金で訴求できることを発見した。

グリソレーノはメッシーナに彼女と話すことを薦めた。そしてメッシーナは彼女をメディア・プランニングのディレクターとして雇い、自分の直属の部下とした。メッシーナはゲルシュコフに、選挙運動のマネージャーとして、自分が広告用資金を決定するときに使えるマスター・プログラムを作ることを頼んだ。それはテレビだけで無く、インターネット、ラジオ、印刷物、および郵便物を含んだ全てのメディアにわたっていて、リアル・タイムの世論調査を元に、広告がどれくらいの人々の意見を動かしているか、あるいは動かしていないかを計りながら、最適なコストを決定するものだ(このプロジェクト用のプログラムはゲルシュコフが連れてきたマクリーンと、彼の代理のフロムマンが構築した。)。

しかし直ぐに明らかになったのだが、そのようなプログラムは、オバマのシニア・ストラテジストであるジム・マーゴリス(Jim Margolis)が経営する、長年のオバマのテレビ広告購入会社GMMBの役割を消し去ってしまうものになり、同社は数百万の委託料を失う可能性があった。同僚たちはマーゴリスが激怒していると伝えた。彼はこれを「あきれてものも言えない」と言った。どれほどの資金を委託業者から節約できたとしても、そんなものは、すでに存在しているシステムの作り直しに伴う混乱の中で消えてしまう(そして、マーゴリスの30人のチームがテレビ業界の中で持っている専門知識や人間関係も失われてしまう)と、マーゴリスは主張し、グリソレーノとアクセルロッドもそれに賛成した。

メッシーナは譲歩した、しかし、GMMBがゲルシュコフのチームからガイダンスを受けるよう求めた。ゲルシュコフは5月に私と話したとき、辛らつな感じでこう述べた。「基本的に言って、9桁に相当する広告費を使うときにジムを助けるツールを私は作ったのよ。それほどのお金を動かそうとしたら、誰だってその考えには反対するでしょうね。」

そのほかにも縄張り争いがあった。ゲルシェコフは自分の解析部門がメディアの解析をするものと思っていた。しかし選挙運動に参加していた数人の運動員の話では、ワグナーは、すべての解析は彼の部門で一元的に行われると信じていた(これについて私が尋ねた時、彼は説明しなかった)。この2人は他の分野でもやはり食い違っていた。ゲルシェコフは自分のスタッフメンバーにビジネス・スーツを着るよう求めていた。しばしばサンダル履きのワグナーが洞窟にいる自分のスタッフに求めたのは、「服は着てろ」と言うことだけだった。

しかしゲルシェコフは、すべてのストラテジストが敬意を払うようなデータの集積を所持していた。彼女は、レントラック(Rentrak)と言う名の、ニールセンと競合している比較的新しい会社と契約し、ケーブル・テレビ会社や衛星放送会社が800万の世帯に設置した約2000万のセットトップ・ボックスから直接得られる、実時間の生視聴データを買い上げたのだ。ゲルシェコフがその契約をグリソレーノに話したとき、彼は興奮した。レントラックがもたらす新しい膨大なデータからは、ワグナーの部門が特定した約1500万の説得可能有権者の家庭にどんな番組が配信されているのか、比較的確かな情報が得られるだろうと、彼は推測した。

ここに、選挙運動の中で「オプティマイザー」と呼ばれるシステムの概念が生み出された。このシステムは今までに無い正確さで、スウィング・ボーターが最も高い密度で見ている番組を特定し、彼らの前に広告を出す上で、可能な限り最も安い時間を見つけ出すシステムだ。しかし、このアイデアを実現するのは途方も無く困難だった。「私の最初の考えでは、『O.K.ここに自分たちがターゲットとする人々のリストがある。』」グリソレーノは言った。「『そして又、ここに視聴者と、彼らが何を見ているかのリストがある。こいつをつき合わせて、ターゲットがどのテレビ番組を見ているか出せばいいじゃないか』と言うものだったんだ。」彼は認めている、「私がナイーブな熱狂に浮かされてちゃんと理解できていなかったのは、このデータの規模と重要性は、明らかに普通じゃ無いと言うことさ。そして私がやりたかったことをする上での技術的課題は、私の予想よりずっと複雑だったんだ。」

この仕事は、最終的にゲルシュコフの手を離れた。2011年の終わりまでに、彼女は選挙運動を離れた。自分の任期は家族の緊急事態で短縮されたのだと、彼女は言っている。翌年春に復帰したとき、彼女は公共広告会社バーソン-マーステラー(Burson-Marsteller)のグローバル解析部門のディレクターになっていた。

オプティマイザー構築の責任はワグナーに回ってきた。「僕たちは1月に引き継いだんだけど、結局ゼロから作ることになった。まったくまっさらな状態からね。」彼は言った。幸いなことに、洞窟で働いていた人間に、数少ないセットトップ・ボックスの専門家、キャロル・デイビッドセン(Carol Davidsen)がいた。デイビッドセンは実年齢の37歳よりも若く見える女性だ。「子供じゃ無いわよ」と彼女は言う。そして、まるで思考が早すぎて口が追いつけないかのような、早口で簡潔なしゃべり方をする。選挙運動に参加する前、彼女は先進的なデータ・エンジニアとして上出来のキャリアを積んでいた。しかし会社員生活にあきあきしていたとき、ワグナーの解析部門から思いがけないe-mailを受け取った。それは、2008年オンライン・ドナーのリストのなかで自分をプログラマーと書いていた人に送られた従業員募集のe-mailだった。「私はバラク・オバマの熱狂的支持者なのよ。」数週間前、グリニッジ・ビレッジのシンク・コーヒー(Think Coffee)で彼女はそう言った。「でもそれだけじゃ無かった。私は自分の人生の中で、完璧なチームの一員として働きたいと思っている時期だったの。で、そういったことは、人々が昇給だとか昇進だとか気にしない世界でなら可能だって知っていたのね。」

彼女の以前の雇い主、ネイヴィック・ネットワークス(Navic Networks)は、セットトップ・ボックスでデータを収集する分野における非常に早いパイオニアだった。そして彼女は、アメリカ人家庭へプログラムを送り、視聴者が正確に何を見ているかを送り返す単一方向のパスをデザインする時、どういう風にテレビを作れば良いか明らかにした初期のプログラマーの1人だった。

デイビッドセンは、レントラックは大体においてグリソレーノがやりたいことを実現できると判断した。ワグナーが作った最も説得可能な有権者のリストと一致する人間を見つけ出すためのデータを、レントラックは提供できるだろうと。レントラックは、すべてのスウィング・ステートのすべての激戦区に住む数千と言うターゲット有権者の家庭のセットトップ・ボックスにアクセスできた(例えばレントラックはデンバー地区に100,000人の顧客を持っていて、その内20,000人近くはオバマのリストに載っていた。一方ニールセンはデンバーに合計600人しか持っていない)。

しかしそこには、政治的に爆弾となりうるプライバシーの問題があった。フェイス・ブックのように、たとえ細かい字を読んでいなかったとしても、ユーザーが個人データを収集することに明示的な許可を得ている場合と異なり、テレビ視聴者はそんな許可を与えてはいない。この問題に対処するために、選挙事務所とレントラックは第3者を雇ってデータを「匿名化(anonymize)」した。説得可能者リストのセットトップ・ボックスから得られた情報であることだけが判るようにし、どの個人であるかを示す情報は取り除くようにしたのだ。

その後、オプティマイザー・ソフトウェアは、広告費と視聴率データを元にふるい分けし、オバマの説得可能リストにとって、もっとも高いレートの時間帯を明らかにする。それは地区ごとに変動するであろう。そしてオバマのスウィング・ボーターが最高の密度で集まる最も視聴率の良い時間帯をランク付けする。出力された結果は驚くべきものだった。最も良い番組のうち2つは、午前一時に放送される「The Insider」の再放送と、「Judge Joe Brown」の午後の回だと選挙事務所は判断した。イブニング・ニュースとかゴールデン・タイムに放送されるあらゆる番組よりも、はるかに安い時間帯だった。「『The Insider』について言えば、これを見ているのはたぶん、オハイオ州とかのシフトで働いている人たちだろうね。労働者階級の人たちで、夜中過ぎないと帰れない人たちさ。」GMMBで購買を担当しているダニエル・ジェスター(Daniel Jester)は言う。彼は最初、低いレートの番組に強くこだわっていた。「『Judge Joe Brown』の午後の回を見ているのも、たぶん午前1時に『The Insider』を見ているのと同じ人たちさ。」

ロムニーの選挙事務所は、同じ有権者を同じようには追いかけてはいなかった。もし彼らが同じようにしていたら、たぶんこの時間帯の競争は激しくなり価格は高騰していただろう。そしてシステムの優位性は失われていた。オバマのチームが考えていた通りなら、オプティマイザーは、ほとんどのストラテジストが資金力のある2つの陣営の間の選挙では不可能であると見なしていたことを実現したことになる。対立候補が対抗手段を講じない番組内で放送されるテレビ広告を通して、未決定の投票者に話しかけるということをだ。

投票日までに、オバマの選挙事務所は、ロムニーに比べて、はるかに多くのケーブル・テレビ番組を活用し、非常に奇妙な時間帯に広告を打った。いったい誰が午前2時にサイファイ・チャンネルでやってる「Area 51」なんて見るんだ?全部合わせると、オバマ側は、ロムニー側に比べて2倍近くのケーブル・テレビ広告を打った。両方の選挙運動のテレビ広告を手がけたNCCメディアの分析によれば、その数は588,006、放送したチャンネルは倍以上の100に上った。

ロムニー側が、このようなテクノロジーが使いうることに気がついていなかったわけでは無い。党派色の無いベンダーであるレンタックは2012年春に自社が持つサービスの提供を働きかけたが、採用されなかった。以前ブッシュのストラテジストを務めていたサラ・フェイギン(Sara Fagen)は、オバマに対抗しうる最適化サービス開発のために、ロムニーのコンサルタント会社、ターゲットポイントと協力して働いていた。しかし彼女の話では、メディア・チームがそれを「使おうとしなかった」と言う(彼女は今、ターゲットポイント社の仲間と共に、新しい会社ディープ・ルート・アナリストを立ち上げ、新たなシステムを開発しようとしている)。

ロムニーのチーフ・ストラテジスト、スチュアート・スティーブンス(Stuart Stevens)は、選挙事務所がテレビ広告を購入する時は膨大なデータを元にしていたと言う。しかし、彼の知っている限りでは、フェイギンは新しいサービスを提供する大勢の中の1人に過ぎなかった。彼の話では、ロムニーの選挙運動は、オバマのとは違うミッションを持っていたのだと言う。「私たちはまだ、見込みのある有権者に、ロムニーがどんな人間なのか知らせようとしている段階だった。」彼は言った。「有権者をあるていど固める前に、表に出て行って『私たちは左利きリトアニア人とこの選挙を勝とうと思います』なんて言うのは、馬鹿げているだろう。」

最終的に、共和党の広告購入会社ナショナル・メディアの分析によれば、オバマ陣営は放送広告に対してロムニー陣営よりも約35%少なくしか支出していない。広告モニター会社のカンター・メディア・CMAGによれば、オバマと彼を支持するスーパーPACはロムニーと彼を支持するスーパーPACよりも約9000万ドル少なくしか支出していないのに、約40,000件も多くのスポット広告を放送した。

51%の得票率で勝利した後、オバマは、解析チームのメンバーを含むシカゴのスタッフを訪問した。デイビッドセンの話では、オバマは彼女を抱きしめ、洞窟にあるお気に入りの備品、一角獣の牙のレプリカにサインしたと言う。「名誉なことよ」と彼女は言った。

選挙運動が終わった時、オバマのチームのテクノロジー専門家たちは、彼らが新しく作ったツールを、新大統領が抱える課題のために使おうとして、ホワイトハウスの住人のドアを叩いたりはしなかった。彼らはベンチャー・キャピタルと顧客を探して、東と西へ分かれて行った。シロコンバレーとウォールストリートへだ。A.M.G.の場合はラス・ベガスだが。

もちろん政治の世界の運動員が、大統領選挙を離れて企業に入り、お金を手に入れるのには、長い伝統がある。そういた人々はしばしば、選挙の合間の時期に、特定の企業なり産業なりの公共政策キャンペーンに入ったり、あるは、幾つかのブランドのイメージ・マネージメントを助けたりしてきた。

それ以外にも民主党政治の伝統には、特に若者たちだが、選挙が終わった後もその闘争を続ける人たちがいる。マクガバン(McGovern)の選挙運動の若いスタッフメンバーたちは、その特別困難だった奮闘を離れた後、再度、自分たちの大儀と党にかかわり続けた。ウェブ・パイオニアとなったディーニアックス(Deaniacs:ハワード・ディーン(Howard Dean)民主党全国委員チェアマン支持者たち)からは、ムーブオン(MoveOn)運動や、2008年オバマ選挙運動へ参加した人間たちを多く出した。

オバマの政治活動は企業世界からは距離を置く傾向があった。そのメンバーたちは、この国を変えるチャンスだと思える物事の方に刺激を受けてきた。しかし11月の投票日の後、偉大な政治的成功と金銭上のチャンスが合致した。オバマのテック・チームにいる20代、30代の人間たちは、自分たちによく似た人間たちがイノベーションで大変な富を手にしているのを見ている(ファイス・ブックとかツイッターとか)。そういったものは、政府の中で達成したいと思うものと同じくらい画期的なものだ。今彼らは、自分たちがマーケットにもたらせるイノベーションはどんなものなのかと考え始めている。

A.M.G.はおそらく、洞窟から出てきた新しい会社としては、最もあからさまに商業的なものだが、彼らは皆、自分たちが学んだものを、未来における成功へと変換しようと頑張っている。数週間前ワグナーは、選挙期間中テクニカル・アドバイザーを務めてくれたグーグルのエグゼクティブ・チェアマン、エリック・シュミット(Eric Schmidt)から資金を投資してもらって、シヴィス・アナリティックス(Civis Analytics)と言う新会社を始めることを発表した。彼の最初の顧客の1つは、全国SATテストを運営するカレッジ・ボードだ。シヴィスは「低収入で、成績は良いが大学入学には届いていない子供たち」を特定しようとしている。「商業的に応用できる範囲はきわめて大きい」と彼は言う。したがって同社は、あらゆる種類の大手営利企業との取引を厭わないと彼は言った。

キャロル・デイビッドセンもA.M.G.からリクルートされたが、彼女はオバマの選挙運動で学んだことを別の方向に使うことにした。それが何であれ、彼女のアプローチは反企業的だ。もっとも彼女は、もしできるなら、自分が金持ちになることに反対では無い。彼女が選挙運動のプログラマー、ジョシュア・セイヤー(Joshua Thayer)と設立したCir.clと言う名の会社は、お互いに取引したいと思うような補完的な関心をもつ人々を見つけ出そうとする会社だ。例えば、ベビー用品を捨てたいと考えている親と、そのベビー用品を市場で求めている親予備軍の人たち。彼女はこれを「再商品化(recommerce)」と呼んだ。

「私には子供がいる友達がたくさんいるのよ。」最近のある金曜日、新しいオフィスで彼女は言った。そこはダウンタウン・ブルックリンの企業ビルにある以前物置に使われていた一室で、部屋の中にはスーパーボールやマックが散らばっていた。「こんな小さなおもちゃの家がいっぱいあるの。これって全部ゴミに出さなきゃいけないものなの?どうしてこれで、お互いに商売しちゃいけないの?どうしていつも大企業なのさ?そんな必要無いでしょう。」自分の選択を説明しながら、彼女は言った。「私はコカコーラの最適化に自分の時間を使いたくないのよ。」

4月にブルックリンでチャウンシー・マクリーンと話した時、彼は、いかにして選挙におけるテクノロジーの成果をシーザーズのような民間企業向けのサービスに転換するか、私に一通り説明してくれた。カジノは膨大な顧客データを飲み込んでいる。「僕たちには、人々の情報を集めた巨大なリストがある。僕たちに必要なのは、顧客になりそうな人間のモデルなんだ。」彼は言った。A.M.G.はそれを一定の範囲のシーザーズ・スコアにブレイクダウンする。ワグナーの説得可能スコア風のものだ。そしたら、A.M.G.はそれを元に、しばらく来ていない人向けに広告を放つ。レントラックを通して彼らが最も密度高く視聴している番組を見つけ出し、テレビ広告で彼らを誘い出すのだ。

マクリーンと彼の若きA.M.G.スタッフメンバーと何回か会合を重ねていく中で、私は彼らに、オバマを当選させることからフォーチュン500企業の販売を助けることにミッションをスイッチすることに関して、何か話してくれとたのんだ。選挙運動でつかったフェイス・ブック・プログラムを書いたサンクレールの話では、彼は自分自身を、他の何よりもまず第一にプログラマーだと考えていて、A.M.G.に参加を決めたのは、自分が「インターネット・スタートアップ会社の億万長者ゲームに参加したく無いって気がついたからなのさ。あれは新聞とかで見るよりも面白く無さそうなんだ。」ゴーラブ・シロールは、マクリーンの話を聞いたのは、財務省の仕事に就こうかと考えていた時だったと言う。「僕はシリコン・バレー・キッドなんだ。あそこには永久にスタート・アップ・バグがいるからね。」

フロムマンは自分が何かしら理想を感じて政治の世界に飛び込んだことを認めている。「僕らは皆、『ザ・ホワイトハウス(The West Wing:NBCが放送したホワイトハウスを舞台にしたドラマ)』みたいなのを、4回ぐらいは見ているからね。世界を変える仕事の一部に参加したいって思っていたのさ。」政治はそういった感情を満足させてくれたと彼は言う。企業顧客は新たなデータセットを意味している。「僕が働いたことの無いものさ。知的な興味があるんだ。」

それでも、政治でできることに対する深い部分での幻滅を目にしないでいるのは難しい。フロムマンが私に話してくれたところでは、2010年に大学を卒業してすぐ、彼は社会保障庁に入ったと言う。1年もしないうちに、彼は新しいシステムの開発に関わった。そのシステムは彼に言わせると、庁の予算を年間10億ドル節約できたと言う。彼のアイデアが興味を持たれ始めた時、彼が属するユニットは解散させられた。表向きは予算削減のためだったが、彼は官僚的内部抗争の結果だと思っている。時として政治の世界は、『ザ・ホワイトハウス』に似ているのと同じくらい『House of Cards』にも似ているんだと彼は言う。ネットフリックスで配信されている『House of Cards』は、議会の陰険なメンバーが殺るか殺られるかのワシントンで生き抜いてゆく物語だ。

マクリーンの話では、グリソレーノは彼にチーフ・オペレーティング・オフィサーの地位を保証し、誰でも好きな人間を雇うことができる権限を与えて誘ったと言う。彼は又、グリソレーノのセールス・ピッチにも惹かれた。オプティマイザー式アプローチには600億ドルの商業広告市場をひっくり返す力があるとグリソレーノは言っていた。その言葉は、何か大きなものの一部に成りたいと言う、自分をオバマ選挙運動へ引き寄せた欲求に訴えかけた。「こいつは凄くでかい取引になる。そうだろう?」彼は言った。「数十億ドルの産業だ。僕らはその産業の仕組みを変えようとしている。」

彼の話では、A.M.G.での彼の仕事は、3年後の民主党へ、さらに改善されたツールをもたらすことになると言う。彼と彼の仲間たちが2016年選挙に参加したいと考えた時に。「僕らはこれを家に持ち帰るのさ。」マクリーンは言った。

しかし現在のところ、彼はワシントンに未練は無さそうだ。「僕は大統領を助けたすべての人に敬意を持っている。いいかい?皆すごい奴らさ。すごい人々だ。でも僕らの行動は制限されている。どこにだって妨害はあるからね。ハウスはハウスさ。」彼は言った。「でももし資金があって、人々に訴求する方法を持っていたら、全部を変えることができるんだ。お金は変化を作り出せるんだ。」

~~ここまで~~

次回更新は7月27日ごろになると思います。
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英語の勉強の為に、ニュースサイトの記事を読んでいるうちに、面白さにつられて翻訳してみようと言う無謀な事を始めました。大変なので更新は一週間に一回位になると思います。どこまで続けられるか解かりませんが。

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