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新入生の壁ってどうやって越えたっけ?

アメリカの大学教育で行われている試みに関する記事をUpします。

記事を書いたのはポール・タフ(Paul Tough)さんです。元記事はここにあります。

学生が卒業までにぶつかる壁を克服するのに心理学的方法で助ける話です。

~~ここから~~

どんな人が卒業できるのか?

物心ついてからずっと、ヴァネッサ・ブリューワー(Vanessa Brewer)は大学へ行くと心に決めていた。大学生になった自分はきっと素敵だろうと思う、独立して知的で可能性に満ちた若い女性。でも、それだけじゃ無い。それは18年前に始まった家族の物語のエンディングを書き換えるチャンスなのだ。アーカンサスの小さな町の高校で成績優秀な最上級生だったヴァネッサの母が、ヴァネッサを身ごもったときに始まった物語のエンディングを書き換えるんだ。
 ヴァネッサの母は、他のほとんどの10代の母親たちより良い成績だった。彼女は高校時代のボーイフレンドと結婚しヴァネッサが9歳の時、ダラス郊外の労働者の町メスキート(Mesquite)へ引っ越して住宅ローン会社で働き始めた。ヴァネッサの両親は彼女が12歳の時離婚、いつだって暮らしは楽では無かったが彼女と弟はどんな事だってやればできると両親から教えられて育った。母親と同じようにヴァネッサは学校で輝いていた。そして彼女が成長すると共に両親と祖母は、しばしば彼女に言って聞かせた。母親が果たせなかった夢を彼女なら果たせる、4年生大学の学位を取れると。
 ダラス周辺にはヴァネッサが入学できるまずまずの大学がたくさんあったが、彼女は中学生の頃からオースチンのテキサス大学(University of Texas : U.T.)へ行くと決めていた。州で一番格式の高い公立の大学だ。高校に入ると彼女は完全な計画を立てた。U.T.に行ったら看護師のコースを取る、そして麻酔の修士号を取る、そしたらダラスに戻って病院の仕事を得る、両親を助けて自分の家族を持つんだ。彼女の頭の中で、それはまるでチェックリストのようだった。そして2013年3月、U.T.から入学許可書が届いたとき、最初の四角にチェックが入ったように感じた。
 5ヵ月後、ヴァネッサは両親につれられてオースチンの学生寮に入った。彼女は緊張していたし大学の大きさに少し気後れもしていた。しかし同時に、ついに念願の場所に来ることが出来た自分に自信も感じていた。皆U.T.は厳しいところだと忠告する。「でも思ったんです、私はこんな遠くまで来ることができたんだって、」ヴァネッサは私にそう言った。「私は頭が良いんだ。大丈夫だって。」

 そして学年が始まって1ヶ月もするとヴァネッサはつまづいた。彼女は最初の統計のテストで失敗する。看護師コースへ進むのに必要な単位だった。彼女は自分がとても気落ちしていることに驚いた。失敗は彼女にとって馴染みのある経験では無かった。メスキート高校では数学のテストのための勉強なんて必要無かった。彼女は大した苦労もせずに全部良い点を取っていた(3年の時のG.P.A.スコアは3.50だった。同学年559名中39位。ACTは22点取っていて、それはSATの1030点に相当した。優秀とは言えないが平均より上だった)。
 ヴァネッサは何か元気づけて欲しくて家へ電話した。母はそれまでいつだって応援してくれたが、今は、はたしてヴァネッサがテキサス大学のようなエリート校を卒業できるほど本当に優秀なのかどうか自信がなさそうだった。「そこに行くべきではなかったかも知れないわね、」彼女は言った。「2年制大学から始めた方が良かったかも知れない。」
 「そう言われたときは死にたい気分でした、」彼女は私に言った。「退学したくなかった。でもその時の状況が示す現実は退学であるかのように感じました。判るでしょ、母はたいてい正しかったから。あらゆる事が疑問に思えてきたんです。ここに来るべきだったのか?自分は充分優秀なのか?」
 テキサス大学にはヴァネッサのような学生が何千人といる。そして国内には何百万人といるだろう。低所得家庭から来ていて4年制大学の学位を切望する成績優秀な学生が途中で壁にぶち当たる。多くの者はキャンパスへ足を踏み入れる前にもう脇へそれてしまう。複雑な学費援助用紙でつまづいたり、家族への義務と言う強力な引力に引き戻される。何人かは適切な大学をどうやって選べばよいか判らず、中途退学者の方が卒業生より多い2流の学校へ行ってしまう。多くは高額の学費に耐えられなかったり多すぎるローンを組んでしまったりする。そして何人かは、正にヴァネッサがやろうとしている事をする。良い大学に入り、ちょっとした壁に出会って怯えてしまうのだ。彼らは助けを求めようとしない、あるいはどうやって助けを得たらよいか判らない。状況は螺旋的に悪化し、気がついてみたら家に帰って借金を抱えながら絶望し後悔している。
 大学卒業に関する国内統計を見れば、そこには2つの大きな傾向が存在するのが即座に判るだろう。最初の傾向は、大学入学を果たし、キャンパスに来て講義に参加し、しかし学位を取れない大勢の学生たちが存在すること。4年生大学に入ったアメリカ人学生の40%以上が6年経っても学位を取れないでいる。この表にコミュニティ・カレッジの学生を入れたら中途退学者は半数を超え、その割合はハンガリーを除くどの国よりも悪い。
 2番目の傾向は、学生が卒業できるかどうかは、今日ほとんど完全に1つの要因に依存しているように見えることだ。その学生の両親がどの位の所得を得ているかと言う要因に。あからさまな言い方をすれば、金持ちの子供は卒業する。貧しい労働者階級の子供は卒業できない。あるいはより統計学的な言い方をすれば、所得分布で下半分に属する家庭に生まれた大学新入生で24歳までに学位を取れるのは4分の1しかない一方、所得分布で上位5分の1の家庭に生まれた新入生は90%が学位を取っている。
 このようなギャップを見た時、たいていの人はその差を能力に求めようとする。金持ちの子供はSATで良い点を取っている。もちろん大学でも良い成績を取るだろう。しかし能力は、この格差における比較的小さな要因でしか無いことが判っている。もしあなたが、異なる家庭環境を持ち、標準化テストでは同じ点数を取っている学生たちを比較してみれば、彼らの教育上の達成度がテストのスコアでは無く両親の収入に依存していることを発見するだろう。標準化テストでまずまずの点数のヴァネッサのような学生、1,600点満点のSATで1,000点から1,200点の学生を見てみよう。こういった学生が所得分布上位5分の1の家庭から来ていたら、彼らの3分の2は4年生大学の学位を取ることだろう。もし下位5分の1から来ていたら、卒業のチャンスは6分の1しか無い。
 ヴァネッサにとって良いニュースは、高度に難関の大学に入ったことが勝算を高めてくれていることだ。低所得層の学生の多くは「アンダーマッチ(undermatch)」してしまう。つまりは、入学させてくれる難関大学に入学しようとしない、あるいは申し込もうともしない。直感には反しているかも知れないが難関大学であればあるほど卒業のチャンスは大きい。しかしU.T.で高度な教育を受けた学生の間でさえ、両親の所得や教育程度は、期限通りに卒業できるかどうかに大きな役割を演じている。2012年に公表されたU.T.の内部レポートでは、第一世代学生(両親が大学を卒業していない学生)のわずか39%しか4年で卒業できておらず、それに比較して、両親とも大学を卒業している学生は60%だ。従ってヴァネッサは言わば逆説的状況の捕らわれの身となっている。学業成績からすれば彼女はエリート大学卒業に必要な全ての能力を持っている。しかし人口統計に従うと、彼女は退学するかも知れない由々しいリスクを負わされている。
 しかし何故なのだろう?何が彼女の道に立ちはだかっているのだ?今年初めて、テキサス大学はこの疑問に真剣に答えようと試みている。同校の事務局はヴァネッサのような学生が抱える問題に真正面から取り組んでいる。U.T.の試みは、有名ではあるが議論の分かれる前提に基づいている。低所得層の学生が卒業するのを助けようとする場合、彼らの学業や資金の問題に取り組むだけでは不十分だ。彼らが抱える疑念、誤解、そして恐れに取り組む必要がある。大学卒業の問題を解決するには、まず大学生の心の内側を知らねばならない。
テキサス大学で学生の卒業を助ける責任を負わされた人間はデイビッド・ロード(David Laude)という56歳の化学教授だ。彼はあらゆる意味において優れた大学教授である。彼は音楽家のトレント・レズナー(Trent Reznor)とか詩人のレナード・コーエン(Leonard Cohen)とかを引用しながら熱力学の第2法則を描写して見せる。そしてしばしば学生たちを教室の前に呼び寄せ、水素が充満した風船に火をつけて巨大な火の玉を出して見せたりする。しかし彼は大学生のときは劣等生だった。テネシー州セワニーのサウス大学(University of South)新入生だったとき、ロードは当惑し、場違いな場所にいると感じていた。カリフォルニア州モデストに住む労働者階級のイタリア系家族の息子は、南部の伝統に浸った大学で自分の進む道を探していた。その大学の学生たちは秘密結社に入会し、講義に出席する時は大学のガウンを着用していた。「かなり大きなカルチャーショックだったよ。」ロードはそう私に話した。「どうやって社会に馴染んだら良いかまるで判らなかった。その上、学問の上でも酷い成績だった。全てが許容量を超えていた。」彼は最初の一年間、退学ぎりぎりをさまよった。
 しかし彼は退学しなかった。彼は大学と言うものを理解した。そして化学と言うものも理解した。彼はその両方を上手く扱えるようになった。そして20年後にU.T.で終身在職の教授になり、セワニーの新入生だった時にCを取った同じ入門コース、化学301を教えることになった。たぶん自分の大学時代の経験が不安に満ちたものであったが故に、教授としてのロードはクラスの学生たちの振る舞いに特に注意を払うようになった。そして彼は年と共に興味深い現象に注意を惹かれるようになった。化学301の成績分布は、一般的な釣鐘型にならないのだ。その代わり、彼が言うところの「2モード分布(bimodal distribution)」に成る。各学年500人の学生には400人程度の集団がいて、彼らはAやBプラスと言った上位の成績に集まっている。彼らは単位を取る。それとは別に100人程度の2番目の集団がいて、彼らの成績は下位のほう、DとかFと言った成績に集まっている。彼らは単位を落とす。
 多くの教授にとってこのパターンは単に高等教育で行われるふるい落としの結果に過ぎない。そうした態度は特に科学の分野では一般的で、難しい入門講義は弱い学生をふるい落とすために存在すると昔から見られていた。しかしロードは別の見方をした。単位を落とした学生の何人かは単に化学に向いていなかったのでは無いと彼は認識した。その中の多くは充分頭が良いのに、当惑し少し怖気づいているだけなのではないだろうかと彼は想像する。かつての自分のように。
 こういった苦闘する学生たちがどんな人々なのか理解を深めるため、ロードは学部事務所からデータを取り寄せて見た。単位を落とした学生たちはほとんどが低所得家庭からきた学生たちだった。その多くは特定の民族、人種、そして地理的な特徴を持っている。彼らはテキサス西部の辺鄙なところからきた白人、あるいはリオ・グランデ渓谷から来たラテン系、またはダラスやヒューストンから来た黒人だった。そしてその多くが低いSAT点数、少なくともU.T.には入れる程度の低い点数で、しばしば1,600点満点で1,000点以下の点数だった。
 U.T.が単位を落とした学生を扱う既定の方法は、彼らを補習プログラムへ押し込むことだ。微積分の代わりに前微積分、科学課程の科学ではなく英語課程の科学といった具合に。「こういうのは考えられる限り最も悪いやり方だと私には思える、」ロードは言った。「こういうやり方は言っているのさ、『おい、君はまだ入学できてもいないんだ』って。そして前微積分とか専門課程で無い化学に入れられた子供たちがどうなるのかデータを見てみたら、皆大学に残れないんだ。疑問の余地は無い。彼らは最初からアウトサイダーだったんだ。」
 1999年、秋の学期の初め、ロードは新入生向け化学講義の全学生の記録を精査し、過去に単位を落とした学生に一般的だった「阻害要因」、低いSAT点数、低所得家庭出身、低い教育しか受けていない両親、の中の少なくとも2つ以上の要因をもった学生50人を選び出した。そしてその学生たちを新しいプログラムへ招待する。そのプログラムは後にテキサス学際計画(Texas Interdisciplinary Plan:TIP)と言う堂々たる響きの名前が付けられたプログラムだ。TIPに入った学生はロード自身が教える特別な小人数クラスの化学301を受講する。しかし彼らが受けるカリキュラムは決して内容を下げたものでは無い。ロードは大人数クラスと同じくらい難しい課題を履修することを彼らに求めた。事実ロードは2つのクラスが同じ速さで進行するようスケジュールした。「私は500人クラスの化学を教えた後、階段を上がって50人クラスの化学を教えたんだ、」ロードはそう説明する。「同じ素材を使い、同じ講義をし、同じテストをした。でも両者の間にはSAT点数で200点くらいの差があった。」
 ロードは小人数クラスが違いをもたらすことに希望を持っていた。しかし又彼は、小人数クラスだけでは200点のSATの差を埋められないことも認識していた。「私たちは彼らが単に講義に来るだけでAを取るようになるなんて考えるほどナイーブでは無い。彼らが上手くやれるよう充分な助力を私たちが与えない限り無理さ、」彼は言った。それで彼は、講義の中に色々な工夫を散りばめた。彼はTIPの学生たちに毎週2時間余分に講義をした。彼は学生たちに助言者を割り当てた。助言者は学生たちと緊密なコンタクトを保ち、学生たちが取り残されたり、解けない問題に遭遇したら教育的介入をする。彼は又、同じレベルのメンターとしてTIPの学生と一緒に活動できる上級生を探し出し、一人一人に割り当てた。彼は出来る全てのことをした。講義の中やクラスの外の両方でTIPの学生に新しい自我を持たせようとした。彼らは援助が必要な劣った学生では無い。高い業績を上げた学者と同じコミュニティーの一員なのだ。
 そしてロード自身でさえTIPの効果に驚くことになる。「テストを始めてみたら彼らは大人数クラスと同じ成績を取った、」彼は言った。「そして課程が終わったとき、SATで200点劣った学生たちが大人数クラスの学生たちと正に同じ成績を取ったんだよ。」その衝撃は化学301のコースを越えて広がった。この一群の学生たち、統計的には退学へと向かう学生たちが、全体として大学の平均より上の成績を2年次にあげ、卒業割合でもU.T.の平均を上回ったのだ。
 2年前ロードは今の地位に昇進した。入学・卒業マネージメントのシニア・ヴァイス・プロヴォストだ。今の彼の公式の任務はU.T.の4年次の卒業割合を現在の52%という低迷状態から70%へ、州内の同僚大学であるアン・アーバー(Ann Arbor)やヴァージニア州シャーロッテビルのチャペル・ヒルの近くまで上げること、そしてそれを2017年までに達成することだ。その為の最善の道は、15年前彼がTIPで取った思想と方策を採用し、オースチン・キャンパス全体へ広げることだとロードは決断した。
 テキサス大学事務局が抱える問題を複雑にしている要因の1つ、そして正にこの学校が非常に興味深いケース・スタディーである理由の1つは、アファーマティブ・アクションに関わる長年の法廷闘争の遺産として独特な入学ポリシーをU.T.が採用している点である。1996年第5巡回法廷で、U.T.が人種を入学要因としていることに対し憲法違反の判決が出た後、テキサス州議会はキャンパスにおける多様性確保のために、ある代替策を可決した。トップ10%法(Top 10 percent law)と呼ばれるもので、テキサス州内のどの高校でも、卒業生の成績上位10%に入る生徒は自動的にU.T.システム内の好きなキャンパスへ入学を許可されるというものだ(過去10年間でU.T.オースチンの人気が高まったので自動入学許可の条件はきつくなった。テキサスの高校3年生は入学許可を得るのに上位7%に入らなければ成らない。ヴァネッサ・ブリューワーもその1人である自動入学許可者は毎年の新入生の約3分の1を占めている)。
 富裕なダラス郊外の高校の上位7%の生徒はどこのエリート大学でも入れそうに見える。彼らはほとんどが富裕でほとんどが白人、そしてほとんどが高いSAT点数をあげている。U.T.を他の難関大学と分けているものは、同校がブラウンズビルやヒューストンのサード・ワードのような高校の上位7%も受け入れていることだ。彼らは全く異なる人口構成の中にいて平均してずっと低いSAT点数しか取れていない。
 U.T.から見てこれらの生徒の良い点は、テストの点数とは関係無しに、彼らがとても良い生徒たちである点だ。たとえ彼らの高校が資金に乏しかろうとも、あるいは州内の他校のように学業に厳しく無かろうとも、彼らはどうやって学べば良いか、どうやって勉強したら良いか、そしてどうやって困難を克服したらよいか理解している。化学301で教えた経験はロードに、こういった学生たちが上手くやれることを、それどころかテキサス大学で抜きん出る存在にだってなれることを確信させてくれた。しかしキャンパス全体のデータを見た時、彼らが上手くやれない学生たちであることは明らかだった。
 「大学に入った子供たちの中には、豊かな家庭の子供も、援助が必要な家庭の子供も両方いる、」ロードは言った。「そして、富裕な家庭の子供には与えられている学業に対する豊富な準備であるとか、自我を確立する機会であるとかを拒絶されるのは、いつでも援助が必要な家庭の子供なんだ。問題は、こういった学生たちが大学に入った初年度に、彼らを駆り立てて富裕な家庭の恵まれた子供たちと競争できる場所へと連れて行ってあげるために、私たちに何が出来るかなんだ。」
 しかしこれら不利な立場にいる学生たちをどうやって助けたらよいか考える前に、ロードが最初にしなければならないのは、彼らが正確にどんな人々なのか知ることだった。単一の化学のクラスの中で見分けるのは比較的単純な話だ。しかし毎年キャンパスへやってくる7000人以上の中から最も弱い立場にいる学生たちを見つけ出すのは困難な作業であるだろう。ロードは学部長事務局内に新たに編成されたインスティテューショナル・リサーチと呼ばれるデータ・チームを使うことにした。他の多くの大規模大学と同じようにU.T.は既にかなり前から、政府から指示された報告書を出すために統計情報をまとめる研究者の一群を内部に抱えている。しかし同校はそれ以外に、予測的解析を専門とする若き統計学者かつプログラマー、ネイト・スライヴァー(Nate Silver)が作り出した新たな時代に対応するデータ・ユニットを、インスティテューショナル・リサーチを使って作った。そして10年分に相当する学生のデータを精査し、財政援助から教員のキャリアパスまで、事務局が下すあらゆる決断のガイドとなるパターンを探した。
 ロードはどんな新入生についても、彼又は彼女の4年次卒業可能性の算出を助けてくれるものが欲しかった。インスティテューショナル・リサーチ・チームは、過去数万人のU.T.生の成績を解析し、その結果からダッシュボードと呼ばれるツールを作り出した。それはスプレッドシート形式のアルゴリズムで、新入生の家族収入やSAT点数からクラスでの順位、両親が受けた教育まで14の変数を扱い、その学生が4年で卒業できる可能性を小数点以下2桁まで即座に吐き出す。
 2013年春、ロードと彼のスタッフはダッシュボードの前に座り、2017年卒業組として入学予定の7,200人の高校3年生を解析した。彼らが学生たちのデータを処理してみると、ヴァネッサ・ブリューワーを含むその中の1,200人は、予定通り卒業する確率が40%と出た。ロードはこれらの子供たちをターゲットに定めた。彼はこの子供たちをそれぞれ新たに作った拡張教育プログラムの1つ以上にアサインした。このプロジェクトの肝は一連の「スチューデント・サクセス・プログラム」にある。各プログラムはそれぞれある程度までU.T.内の異なる学部、自然科学やリベラル・アーツやエンジニアリングに合わせて変更が加えてある。しかし全てが、15年前ロードが基本的なTIPモデルで考えたものに従っている。少人数クラス、学生同士のモニタリング、特別なチューターによる援助、専任の教員による助言、そしてコミュニティー構築を即す行事などだ。
 しかしながら、ロードが最も力を入れた革新的施策はユニバーシティ・リーダーシップ・ネットワーク(U.L.N.)と呼ばれるもので、これは学業スキルでは無くリーダシップスキルを開発する新たな奨学金プログラムである。新入生がU.L.N.に選ばれるにはダッシュボードで40%以下に入るだけでは無く、学資援助事務局が学資不足と見なす学生である必要がある。実質的にそれはU.L.N.の学生の家族収入が国内平均値以下でることを意味している(そのような家族収入をダッシュボードに入力すると、予定通りに卒業する確率はさらに下がる。ロードはU.L.N.生の確率は40%では無く20%と推計している)。U.L.N.に入った500人の新入生はコミュニティ・サービスを行い、グループ討論に参加し、時間管理とかチーム・ビルディングとかの講義に毎週参加する。講義には成熟した格式高い雰囲気があり、学生はビジネス・スーツの着用を義務付けられる。後年、U.L.N.生はキャンパス内のインターンシップで奉仕し、メンターとか寮内のアドバイザーとか学生自治会の幹部などの指導的立場に移ることを期待されている。その全ての見返りとして、彼らは毎年5,000ドルの奨学金を月ごとに分けて受け取る。
 おそらくサクセス・プログラムの最も衝撃的な特徴は、選択基準が学生には決して開示されないことだろう。「数字から見た限りでは、プログラムに入った学生は所得分布5分割の最下層に入るだろう、」ロードはそう説明する。「しかしここに鍵があるんだ、彼らの誰も自分たちが5分割の最下層にいることを知らない。」別の言葉で言えば、ダッシュボード運用上の第一の規約は、決してダッシュボードのことを人に話してはいけないと言うものだ。おそらくU.L.N.生は自分たちが選ばれたのは部分的に経済的な問題のためだと、ある程度まで理解しているだろう、とロードは言う。しかしこれらの学生と直接関わるとき、大学がその事実を強調しないようにするのは重要だと彼は言う。これは彼が最初にTIPプログラムを始めたときから使い続けている基本的な心理学的戦略の延長だ。実際、最も失敗しそうな学生を選んでいるのだが、彼らをこの特別プログラムに選んだのは彼らが失敗することを恐れたからでは無い、彼らが上手くやれると確信しているからだと言う考えを、全ての会話を通して訴え続けるのだ。
 そしてそれは、ロードの見地からすれば、真理に基づいている。1月末のある朝、私は彼と共に彼の事務所に座っていた。春の学期のために学生たちがキャンパスに戻ってからあまり経ってないころだ。その日は冷たい嵐が襲ってきて大学は閉館していた。私と彼以外、キャンパス中央の巨大な時計台がある事務局の建物にはほとんど誰もいなかった。私たちはセワニーでの彼の経験について、特に落ち込んでいた時期について話していた。それは、ほとんど正確に38年前、彼が新入生の春の学期でキャンパスへ戻り、疑念にさいなまれ、あきらめて家へ帰りたくなっていた時だ。「誰にもそういう時期はある、」ロードは言った。「U.L.N.の子供たちのなかにもたぶん50人から60人が、今まさに学業上の煉獄にいることだろう。彼らは大学に帰ってきたし、私たちは彼らの為に手厚いサポート・ネットワークを作り上げた。しかしそれでも、彼らの中には恐れている者たちがいるだろうし、やり遂げられるか不安に思っている者たちもいるだろう。私は彼らの内大多数がやり遂げられる方に賭けている。そして彼らはやり遂げるだろう、何故ならここにいる誰もが、彼らが簡単にあきらめるチャンスなど与えないのだからね。」
 ロードは勉強を重ねて科学者になった人物だが、彼はそのほとんどの時間、どのようなメッセージや環境上のきっかけが彼のプログラムに参加する学生の決断に影響を与えるのか、心理学者のように考えながら過ごしている。彼は、自分は心理学者としては頑張ってもアマチュアに過ぎないと最初に自認している。しかし彼はU.T.の心理学研究者たちの中に、同じような心情を持つ仲間を見つけ出した。デイビッド・イエーガー(David Yeager)という、教育心理学の分野で、世界でも指導的な専門家として頭角を現しつつある32歳の助教授だ。自分の研究を通してイエーガーは、ロードが毎日取り組んでいる問題に答えようとしている。成功するために必要な一歩を踏み出すよう学生を動機付けるには、正確にどうすれば良いのか?という問題だ。
 2012年の冬にU.T.に来るずっと前、学部卒業生だったイエーガーはスタンフォードの心理学部で働いていた。それは丁度、スタンフォード心理学部が教育心理学上の新たな概念の温床だった時代だ。指導的研究者であるキャロル・デュエック(Carol Dweck)、クロード・スティール(Claude Steele)、ヘイゼル・マルクス(Hazel Markus)は実験的手法を駆使して学生たちの幼少期から大学入学までの経験に深く分け入った。そしてスタンフォードの研究者たちは一つの統一的見解を共有するまでに成った。その見解とは、学生たちは自分の能力に対するある種の恐怖や不安や疑念によって、しばしば自らの可能性を開拓し尽くすのを止めてしまうと言うものだった。そのような感情は、例えば高校の新入生とか大学の新入生といった教育移行期に特に大きな害をなす。そして又、エンジニアリング・プログラムへ進んだ女性とか、家族で最初の大学生であるとか、アイビー・リーグに進んだアフリカ系アメリカ人であるとか、自分が特別な脅威や詮索の対象となるグループのメンバーであった時、特に気分を萎えさせるものとなる。
 そういったネガティブな考えは、もちろん個人々々で異なる形を取るのだが、大体において2つの概念の周りに集まる。その内の1つは帰属に関する概念だ。移行期の学生は、自分がこの新しい学校に本当に帰属しているのか、あるいは帰属することが出来るのかについて、しばしば根深い疑念を経験する。もう1つは能力に関する概念だ。多くの学生は、キャロル・デュエックが名づけたところの、実体的知性(entity theory of intelligence)なるものを信じている。知性というのは固定的なもので練習とか勉強で改善不可能だと言う考えだ。だから、彼らがなにかしら、自分の頭が良くないとか勉強が出来ないとかを示唆する経験、例えばテストの点が悪かったという経験をすると、しばしばそれを自分はけっして成功できないサインとして解釈する。帰属に対する疑念、能力に対する疑念は、しばしばお互いに補強し合って無力感を作り出す。その無力感は、何かしら状況を変えるかも知れない一歩を踏み出すのをあきらめさせる。自分の頭が良くないなら勉強してなんになる?結局誰も自分とは話したがらないのに何故外に出て新しい友達を探すんだ?つきまとう疑念が、自分で実現させてしまう予言に変わるのに長くはかからない。
 2006年にイエーガーがスタンフォードに来た時、多くの研究者はこの現象の理解から対抗手段の模索へと移り始めたところだった。一連の実験のなかで彼らは、適切な時期に適切な方法で狙いを絞った特定のメッセージを学生に届けられれば、その学生の学業における潜在能力を毀損させている帰属とか能力に対する疑念を克服できることを発見している。
 イエーガーはグレッグ・ウォルトン(Greg Walton)という社会心理学者と研究を進めた。彼はどのようなメッセージをどのようにして届けると学生に対し最も説得力を持つかという原理を特定した。例えばメッセージは社会的基準に適合していると訴えることができれば効果が大きい。ほとんどの学生は大酒を飲んで浮かれ騒いだりしないと教えられた大学生はそういう行動を控えるようになる。さらには自主的に受け取ったと思わせることが出来れば、ほとんどのケースでメッセージはより効果が大きくなる。高校2年生全員を体育館に集めて寛容や帰属を賞揚する劇の観賞を強要したとしても、そのメッセージが彼らの心に届くことは、彼らが自分で観に行く場合よりもおそらくは少ない。そしてポジティブなメッセージは、ウォルトンが言うところの自己説得(self-persuation)を通して経験した場合、より効率良く吸収される。学生が特定のメッセージを持つビデオを見たりエッセイを読んだりした後、将来の学生を説得するために自分自身のエッセイを書いたりビデオを撮ったりすればメッセージはより深く内面化される。
 イエーガーとウォルトンの方式は、実験の場で次々と際立った成果をあげていった。北西部のエリート校で、ウォルトンは又別のスタンフォードの研究者であるジェフリー・コーエン(Geoffrey Cohen)と共に実験を行った。その実験では上級生が新入生時代にした経験を回顧するエッセイを初年度の学生に読ませた。上級生は自分の言葉で帰属に関する単純なメッセージを届けた。「僕がここに来た時、自分だけが取り残されていると感じた。でも皆が同じように感じていることを知ったんだ。そして誰もがそれを乗り越えてきた。僕もまた乗り越えたのさ。」エッセイを読んだ後、実験に参加した学生は、同じメッセージを将来の学生に届けるため、自分自身でもエッセイを書いたりビデオを撮ったりする。全ての作業は1時間もかからなかった。実験に参加した白人学生には明白な影響は見られなかった。しかしアフリカ系アメリカ人学生の大学生活には甚大な影響を与えた。実験に参加しなかった同一条件のグループと比較して、実験はG.P.A.(Grade Point Average:成績評価値)で学年の上位5分の1に入る黒人学生の数を3倍にし、G.P.A.での黒人と白人の差を半分に縮めた。さらには学生の健康状態にも影響を与えた。帰属に関するメッセージを受け取った黒人学生は、3年後に計って見ると、医者にかかる件数が大幅に少なかったのだ。
 翌年、イエーガーはカリフォルニア州北部で高校に入ったばかりの生徒600人を対象に実験を行った。実験は25分間かかった。学校のコンピュータ・ラボで端末の前に座った生徒たちは、又別の単純なメッセージを持つ科学の記事と上級生の証言を読んだ。人間は変われると言うメッセージだ。仮に誰かが自分に対して意地悪であったり、自分をのけ者にしたりしていても、ほとんどの場合それは一時的なものだ。自分あるいはその人の中に永久に存在する特徴のためでは無い。イエーガーが高校1年生を対象に選んだのは、特にこの世代は憂鬱になりやすいことが広く知られているからだ。一般的に言って高校への移行時に鬱病を起こす人の割合は倍になる。実際にもイエーガーの研究でメッセージを受け取らなかった同一条件のグループにおいて、その年度に鬱病の症状を訴えた生徒は39%増加している。人間は変わるというメッセージを受け取ったグループにおいては鬱病の症状を訴えた生徒数に目立った増加は見られなかった。別の言葉で言えば、このような教育的介入は、どのような人の鬱病も治癒してはいないが、伝統的に鬱になりやすい時期に鬱病症状が現れるのを実際に防いだ。そしてそのような成果はわずか25分の処置で達成されたのだ。
 鬱病に関する研究の後で、イエーガー、ウォルトン、他2名の研究者は、数学の補習プログラムあるいは「啓発(developmental)」プログラムに編入されたコミュニティ・カレッジ生を対象とした実験を行った。教育問題に関わる人間にとってコミュニティ・カレッジの数学補習プログラムは大学に希望を託す多くの学生に、特にコミュニティ・カレッジで不釣合いなほど多い低所得家庭の学生にとって特別困難な障害であると認識されている。統計データは重苦しい状況を示している。全コミュニティ・カレッジ生の約3分の2が1つ又は複数の数学補習プログラムを履修させられており、この講義をパスしない限り彼らは卒業できない。その内の3分の2以上が講義をパスできず、完全に大学からドロップアウトしてしまう。
 この数学補習問題の一部は明らかに、多くの学生が中学高校時代に充分な数学教育を受けられず、大学の数学に対する準備が不十分なまま卒業している事実に由来している。しかしイエーガーとウォルトン、そして次第に数を増しつつある多くの研究者が、この問題の重要な一部を構成しているのは心理学的な問題であると信じている。彼らはデイビッド・ロードがTIPを始めたばかりの頃に受けた直感と同じ事を言う。大学生に対し、君は大学に入れるほど頭が良くないと言うメッセージを送ったら、それこそキャンパスに来て直ぐに数学補習プログラムに編入されたら受け取らずにはいられないようなメッセージを送りつけたら、その学生はそういった自画像を自分に植え付けてしまう。
 実験では、数学補習プログラムに編入された288名のコミュニティ・カレッジ生が、学期の初めにランダムに抽出され、2つのメッセージのどちらか1つを読んだ。コントロール・グループは脳に関する一般的な記事を読む。治療グループは実体的知性を否定する科学的証拠を紹介する記事を読む。「人々が代数学や統計学を新たな方法で学んで練習すれば、」その記事は説明する。「それによって脳が成長する。過去に数学が得意でなかったとしてもだ。」記事を読んだ後、各学生は将来の下級生へ向けて、そのキーポイントを説明し指導する手紙を書く。全体で30分しかかからない作業で、それ以後、何のフォローアップも無い。しかし学期の終わりに、コントロール・グループの30%は数学補習からドロップアウトしたのに比較し、治療グループからは9%しかドロップアウトしなかった。別の言葉で言えば、ほとんどコストがかからない半時間の教育的介入が、コミュニティ・カレッジ数学のドロップアウトの割合を半分以下に減らせたのだ。
 2012年の冬にイエーガーがテキサス大学に到着して直ぐに、彼は大学の副学長であるグレッチェン・リター(Gretchen Ritter)からemailを受け取った。その人物は彼の仕事を聞いてもっと良く知りたいと望んでいた。リターの招きで、イエーガーは大学の様々なグループの事務局向けに一連のプレゼンテーションを行った。彼は毎回のプレゼンテーションで、学生が感じる能力や帰属に対する不安に向けた教育的介入が大学入学時の問題を、特に第一世代学生が抱える問題を改善できるかどうか、自分とウォルトンはテストを始めようとしていると示唆した。リターは、そのアプローチがオースチンでも有効かどうかイエーガーに尋ねた。そのような教育的介入を数百名の学生に対してではなく、U.T.に来る全ての新入生に対してできるだろうか?理論的にはできるとイエーガーは彼女に答えた。しかしそのような規模で実施するにはオンラインで行わなければならないだろう。そしてもし自分がやるなら、ランダム化比較試験として実施したい。そうすればウォルトンと自分は、何が有効であるのか価値のある新たなデータを集められる。2012年4月、リターはイエーガーに、2016年度U.T.クラスとして入学する8000人以上のティーンエイジャーに対し彼の教育的介入をテストすることを依頼した。これは社会・発達心理学でかつて行われた内で、最大規模のランダム化比較試験になるだろう。そしてそれは3週間以内に準備する必要があった。
 イエーガーは既に限界だった。彼と彼の妻はオースチンに越してきたばかりだ。3週間前に2番目の子供を授かった。彼は引き続き行っているスタンフォードからの委託研究に飲み込まれそうであり、初めて教える講義の準備に奮闘していた。しかし彼は又、U.T.の卒業割合の格差に心を痛めており、自分とウォルトンが開発した教育的介入方法は、良く組織化して大規模に実施すれば違いをもたらすことが出来ると自信を持っていた。「家に帰って妻のマーゴット(Margot)のところに行き、」彼は私に言った。「そして言ったんだ。『O.K.自分でもオーバーワークだって判ってるよ。家に帰れてないことも判ってる。でもあと3週間我慢してくれないか。これは今まで僕がやって来た中でも一番重要なものになるかも知れないんだ。』ってね。」
 イエーガーは直ちにフォーカス・グループを組織し、今現在のU.T.生と1対1の話し合いを始め、どのようなメッセージが最もU.T.生に効果的であるか明確な理解を得ようと試みた。イエーガーがしばしば強調する、教育的介入に関して覚えておかねばならない重要なポイントは、帰属や能力に関する基本的メッセージを教育的介入の度に繰り返すとしても、彼とウォルトンが信じるところでは、メッセージに使う言葉は毎回、特定の聴衆をターゲットとして選ばなければならない。アイビー・リーグの大学に入学したばかりの成績の良いアフリカ系アメリカ人が経験する不安は、数学補習プログラムに割り振られたばかりのコミュニティ・カレッジ生の不安とは異なっている。
 イエーガーとリターは、こうして選択したメッセージを入学する学生に届ける最も良い方法は、全ての新入生がキャンパスへ来る前に終えておかねばならないオンライン・プレオリエンテーションの一部にすることだと判断した。その5月、全入学予定者は学籍担当事務局が出す通常のウェルカム・トゥー・U.T. emailを受け取り始めた。Emailは彼らをU.T.のウェブサイトへ招き、ログオンして一連の項目を埋めるよう伝えた。髄膜炎予防ワクチンを打たねば成らないとかU.T.の倫理規定とかいった情報の間に埋め込まれていたのは、イエーガーが作った「U.T.マインドセット(U.T. Mindset)」に関するインタラクティブなプレゼンテーションへのリンクだった。
 学生たちはランダムに4つのカテゴリーに分類された。「帰属」治療グループは現役の学生が書いたメッセージを読む。そこにはキャンパスに来た時に孤独でのけ者にされていると感じたこと、しかし皆そんな風に感じるのだということが判り最後には自宅にいるように寛げるようになったと書かれている。「考え方(mindset)」治療グループが読むのは脳の順応性に関する記事で練習が脳内に新たなコネクションを作る様子が説明されている。そのあと、やはり現役学生からのメッセージを読み、そこには、自分の頭はそんなに良くないのではないかと不安だったが勉強すれば良くなることが判ったと書かれている。混合治療グループは帰属と考え方の2つを組み合わせたプレゼンテーションを受け取る。最後のコントロール・グループは、現役生の全く平凡な感想を読む。そこにはオースチンの風俗とか天気とかに驚いたが最後には慣れたということが書かれている。各グループの学生は、1ダースそこそこのウェブページをクリックした後、将来の新入生への助言となるように自分の感想を書くことを求められる。この教育的介入は学生が終えるのに全部で25分から45分程度で済み、90%以上の新入生がこれを完了させた。
 始めるに当たってイエーガーは2012年の実験をパイロット的なものと考えていた。単に大規模な教育的介入のメカニックをテストするのだと。これによって重大な結果が導き出されるかどうかはあまり自信が無かったので、秋学期の終わりに学生たちが少なくとも12単位の課程を修了させたことを示すデータを見た時は驚いた。最初の学期の履修単位の数は、今まで常にU.T.生の後年の格差を示す兆候だった。毎年、この研究で言うところの「不利を背負った」新入生たち、その全てが黒人またはラテン系あるいは第一世代の新入生たちのうち、クリスマスまでに12単位履修できたのは81%から82%しかいなかった。それに比較すると恵まれた学生は90%が履修できている。
 2013年1月、イエーガーが初学期のデータを解析したとき、彼は恵まれた学生たちの結果が正確に毎年同じであることを確認した。彼らがプレオリエンテーションでどんなメッセージを受け取ったとしても、その90%は順調に進んでいる。同じように、コントロール・グループの不利な学生たち、オースチンの風俗とか天気に慣れたと言う平凡なメッセージを受け取った学生たちもいつも通りの結果だった。順調なのは82%。しかし帰属や考え方のメッセージを受け取った不利な学生たちの数字は大きく改善していた。86%がクリスマスまでに12単位以上を履修できている。彼らは自分たちと恵まれた学生たちとのギャップを半分に減らしたのだ。
 4%の上昇は革命的とは見えないだろう。そしてイエーガーもウォルトンも未だ勝利宣言をしていない。しかしもし教育的介入の効果が残りの3年間も持続するのであれば(そしてエリート大学における研究ではそうなっているが)、それは、今までなら、仮に卒業できたとしても期限通りには卒業できなかったであろう第一世代学生数百名が、2016年にU.T.を卒業できることを意味する。デイビッド・ロードの目標の達成までにはまだ多くの時間がかかるだろう。そしてこの全ては、終えるのに45分しかかからない1回だけの教育的介入の結果でしかない。しかしU.T.の事務局は勇気付けられた。今月から、「U.T.マインドセット」教育は2018年度卒業予定クラスのメンバー7,200名全員のプレオリエンテーションに加えられることになった。
 イエーガーとウォルトンが自分たちの仕事を仲間の研究者の前でプレゼンテーションした時に良く聞く反応は、そんな結果は本当とは思えないと言うものだった。最初の頃、彼らはそれぞれ、研究費や科学論文を拒否された経験を持っている。その理由はデータとか研究手順に瑕疵があったためでは無く、これほど強力な結果がかくもわずかな教育的介入で達成できるとは誰も信じなかったからだ。イエーガー自身も自分たちのデータが信じがたいものであることを認めている。この結果は、人間の心がどのように働くかという推論に反している。しかし彼は、これらのメッセージを読んだ学生たち、それがU.T.生であろうとコミュニティ・カレッジ生であろうと高校1年生であろうと、彼らの中で何が起きたのか、全体の妥当な説明を明確に述べることができる。
 私たちがこれらの実験について読んだ時、最初に浮かぶ直感は、教育的介入が学生の心に変更をもたらした、何か深い部分の信念を別のものに置き換えた、というものだ。そしてわずか25分ばかりコンピュータ・スクリーン上でこれらの言葉を読んだくらいでそんなことができるとは想像し難い。人間はそんな簡単には説得できないものだ。しかしイエーガーの信じるところでは、この教育的介入は事実として学生の心を変えたのでは無い。彼らは単に、将来的に起きる出来事から極度に気落ちしないようになっただけだ。「私たちは学生たちが悪い出来事を経験しないようにすることは出来ない、」イエーガーは説明する。「その代わり、私たちは出来事の意味を変えようとしている。そういった出来事で学生たちが、物事は決して良くならない、なんて受け取ったりしないようにね。」
 全ての大学新入生は、富める者も貧しき者も、白人も少数民族も、第一世代も代々の卒業生家族も、学業上の困難に遭遇し、自分が受け入れられていないと感じて気落ちする瞬間がある。しかし白人学生や富裕な学生、あるいは家族に大学卒業生を持つ学生は、そういった瞬間をあまり深刻に受け取らないし、自分だけの問題とも思わない。もちろん彼らも、テストに失敗したりルームメイトと喧嘩したりデートを断られたりしたら悪い気分になる。しかし一般的に言って彼らはこういったつまづきを、自分が大学に帰属して無い、あるいはここでは上手くやれないことを意味しているとは解釈しない。
 このような問題に影響され易いのは、それが人種であれ収入格差であれ、少数派であることによる特別な恐れや不安に直面し疎外された経験を持つ学生たちだけだ。こういった学生たちは一時的なつまづきを、決して成功できない、あるいは決してU.T.に帰属できないことを意味する恒久的な兆しであると、しばしば間違って解釈する。こういった学生たちには教育的介入が、言わば予防接種のような働きをする。そして、6ヶ月後、あるいは2年後に自己不信のばい菌が襲ってきた時、教育的介入の長期に亘る効果によって、ちょうど恵まれた学生たちがするのと同じように疑念を振り捨てることができるようになる。
 1月にヴァネッサ・ブリューワーと話した時、彼女はこういった疑念に深く捉えられていた。彼女は秋学期で、完璧に穏当な3.0というG.P.A.を得たし、統計学ではBプラスを獲得しさえした。しかしとても困難な時期だったと彼女は振り返る。「誰からも信頼されていないみたいに感じました、」彼女は言った。母親は彼女が唯一打ち明け話ができる相手だった。しかし時として母親との会話さえもが、助けてくれる者が周りにいないことを強く感じさせるものになった。「母は私が前と変わったように聞こえると言ったんです、」ヴァネッサは言った。「母は、『大丈夫?自分の面倒見られてる?』っていう調子でした。私はいつも御機嫌な人間だったのに、母に電話した時は、たぶん声の調子も単調で無関心に聞こえたんでしょうね。」
 これから始まる学期のことを考えると緊張するとヴァネッサは言った。そして自分がU.T.に属しているかどうか、クラスルームに入るときいつも不安になるのだと言う。「他の皆は鞄の中に何かを入れているように見えるんです、」彼女は言う。「皆に脅されているように感じました。皆ただ座っているだけなのに。皆がノートを取っている様子からもそう感じました。皆自信に溢れているように見えたんです。時々場違いなのは自分だけだって感じるんです。判るでしょう?」
 しかし春の学期が進むにつれ、ヴァネッサの周りの状況は良くなってゆく。彼女はあの忌わしい化学301を取り、本当に難しいと思う一方で、取り残されたりしないと決意を固めた。彼女はU.L.N.に入り、デイビッド・ロードが監督する別のプログラム、ディスカバリ・スカラーズ(Discovery Scholars)にも入った。そして彼女の助言者は、キャンパスのチュータリング・センターで彼女が自由に助けを求められるよう手配してくれた。彼女は毎週6時間以上そこで過ごし化学の問題に取り組み、3月までに全てのテストでA又はBを取れるまでになった。
 ヴァネッサは次第により強く帰属していると感じるようになった。ヴァネッサが私に話してくれたところでは、2月のある日、ディスカバリ・スカラーズのオフィスにいた時、突然「少しネットワーク作りをしたくなった」と言う。彼女はフロントデスクにいた若い女性に近づいた。その人はヴァネッサと同じくアフリカ系アメリカ人の学部生だった。ヴァネッサは彼女に、看護師プログラムにいる学生をしらないかと、気まぐれに尋ねた。偶然にもその人の親友2人が看護師プログラムにいて、アフリカ系アメリカ人の看護師協会をU.T.で立ち上げる手助けをしているところだった。
 ヴァネッサはその人たちの電話番号を貰ってメッセージのやり取りを始め、会合の一つに招かれた。2人はヴァネッサより2歳年上の3年生で、ヴァネッサを庇護の下に置いてくれた。「私はお手本になる人間を見つけたんです、」ヴァネッサはそう私に話した。「今まで一人ぼっちと感じてたのが、『私も貴方と同じように泣いてたのよ、』って言ってくれる人たちを見つけたんです。助かりました。」
 もちろん、ヴァネッサがメンターやチューターから受け取った帰属や能力についてのメッセージだけが、彼女に化学301をやり遂げさせたのでは無い。しかしそういったメッセージは、色々と目には見えないが重要な意味をもっていて、見かけ上は小さいが結果としてU.T.での将来に大きな変化をもたらした決断へと彼女を導いた。それはチュータリング・センターへ行って助けを求めるとか、又は看護師プログラムに親しい学生はいないかと、見知らぬ人に話しかける勇気を持てたとかいったようなことだ。
 私はこの数ヶ月、オースチンで記事を書いている間に、数十人の新入生と話した。その多くはヴァネッサのようにU.L.N.やその他のロードのプログラムに加入している学生たちだ。それぞれの物語は異なっているが、彼らの初年度の経験は驚くほどしばしば同じような軌跡をたどった。高校で上々の成績をあげ自信に溢れてキャンパスに到着し、打ちのめされて最初のつまづきを経験する。ある学生は、鬱状態になり夜眠れなかったと話した。別の女性は体重が落ちて発疹ができたと言った。しかし数週間、落ち込んで不幸な気分でいた後、その多くはより深いところでの自信を取り戻す。しばしば回復に必要な助けはU.L.N.の助言者やTIPのメンターからやって来る。ときとしてそれは、家族や教会のコミュニティーやルームメイトから来る。しかしどのような方法であれ、私が話した学生のほとんど全員が、状況を転換させて、ひどく落ち込んだ状態から自分自身を引き戻した。
 「こういった教育的介入について私が気に入っているのは、重大な決断を下すのは子供たち自身だという点なんだ、」イエーガーは私に言った。「単位を取るのは彼らで、それに相応しい力を持っている。私たち介入者じゃ無い。そしてそれこそが教育的介入の最善の方法なんだ。結局のところ人間は自分の中に何らかの資本を持っている、ある種の財産だ、知識とか自信といったね。そしてもしそれを表に出せるよう、私たちに助けることができたなら、人生で次なる困難に出会ったときも、彼らはきっとその財産を発揮できることだろう。」
 U.L.N.の学生たちとの会話から、私は彼らの将来について楽観的になった。しかし彼らは又、重篤な不安に変貌したかもしれない初期の疑念によって、物事がいとも簡単に別の方向へ言ったかも知れないことを思い起こさせる存在でもある。ロードとイエーガーが示そうとしているのは、学業上および心理学上の正しいサポートによって、こういった学生たちがテキサス大学のようなエリート校を実際に高い割合で卒業できていることだ。それこそが正に、ここで行われている巨大な教育学上の実験がオースチン・キャンパスを越える意味を持っている理由だ。
 ヴァネッサや彼女の仲間のU.L.N.のメンバーが4年生大学を卒業できるかどうかは、あらゆる意味で重要だ。データによれば今日、今まで以上に、低収入アメリカ人に経済上方可動性を持たせる最も強力なツールは4年生大学の学位である。もし子供が下位5分の1の所得層の家庭に生まれて(即ち年収28,000ドル以下の家庭に生まれて)、彼女に大学の学位が無かったら、彼女が上位5分の1の所得層に入る可能性は14%しか無く、生まれた所得層から抜け出せないチャンスが45%もある。しかし彼女が4年生大学の学位を持っていたら事態は完全に変わる。彼女がトップ5分の1の所得層の1人になるチャンスは突然40%に跳ね上がり、最下層に留まるチャンスは16%に減る。
 学生たち自身の経済上の機会以上に問題なのは、これほど多くの将来性ある学生をドロップアウトさせてしまうことによる膨大なコストだ。貴重な人的資源のあまりにも大きな損失だ。20世紀全体を通して合衆国は大学卒業生を送り出す仕事において他のどの国よりも良い仕事をしてきた。しかしここ20年というもの、私たちは国際的なリストの上位から抜け落ちてしまっている。大学卒業学位を持つ若者のパーセンテージで合衆国は今や世界で12位になっている。その同じ時期に、又別のトレンドが現れている。最も富裕な学生たちは大学で非常に上手くやれている一方、中所得層や低所得層の学生たちは学位取得に苦闘している。この2つのトレンドは明らかに関連し合っている。そしてこれを逆転させない限り、国家がグローバルな競争力を取り戻したり経済上方可動性を改善したりできるとは想像し難い。
 そのためには、国家的なレベルで複数の分野に対し幾つかの継続的な仕事が必要だろう、しかしその回答の大きな部分がテキサス大学オースチン校のような大学、規模が大きく難関ではあるがスーパーエリートではなく、かつてはアメリカの大学の中心的任務であった仕事、間違い無く中心的任務であった仕事に大きな規模で取り組める大学に存在する。高い意欲を持つ労働者階級のティーンエイジャーを大量に受け入れて、成功するプロフェッショナルになるために必要なツールを授ける任務だ。U.T.における実験は、そのプロセスが容易でないことを思い起こさせる。今までも容易であったためしは無い。しかしそれが可能であることも思い起こさせるのだ。

~~ここまで~~

翻訳ができしだい、適時Upします。
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