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脳トレゲームは本当に効くの?

いわゆる脳トレ・ゲームの記事をUpします。

記事を書いたのはクライブ・トンプソン(Clive Thompson)さんです。元記事はここにあります。

ビデオゲームが脳の老化を防げるかという記事です。

~~ここから~~

ビデオゲームは脳の老化を防げるのか?

 「ちょっとぶつかっただけだよ、」アダム・ガザレイ(Adam Gazzaley)は言った。
 それは、そのとおりだ。私はロケット駆動のサーフボードを川岸の氷の壁にぶつけたところだった。そこはガザレイのサンフランシスコ研究所の中、狭い部屋には色とりどりに着色されたワイアで脳派測定器に繋がったキャップが乱雑に並べられている。私がやっていたビデオゲームは、ジェネレーションXのゲーマーとか子供たちに向けて売られている類のものではない。実際のところそのゲームのユーザーとして想定される人には60歳以上の年齢層も含まれている。何故ならそのゲームは加齢に伴う脳の退化を防ぐためのものだからだ。
それはコール・オブ・デューティーで鍛えた私の脳にも凄く難しいゲームだった。プロジェクト:エヴォ(Project:Evo)と呼ばれるそのゲームは複数の認知機能を一度に使うようデザインされている。私はサーフボードを操って曲がりくねった川を、岸へぶつからないように避けながら下って行く。その動作はガザレイが言うところの「視覚運動機能(visual-motor tracking)」を必要としている。しかし私は同時にターゲットに注意しなければならない。スクリーン上で赤い魚が水から跳び出してきたらタッチしなければいけないのだ。私が熟練するにつれてゲームの難易度は上がる。川の曲がりくねりがきつくなったり、何回曲がったか覚えてなければいけなくなったりする(そういうのは「作業記憶問題(working-memory challenges)」と言う)。直ぐにターゲットがもっとややこしくなる。今度は青い鳥と緑の魚をタッチしなければならなくなるのだが、ゲームは緑の鳥とか青い魚を混ぜてくる。それは私の「選択的注意(selective attention)」をテストしている。いかに素早く状況を判断し反応するかがテストされているのだ。
 2分間ゲームをする間に私はあらゆる種類の失敗をした。ゲームのスピードが上がるにつれ間違った魚を一生懸命指差した。
 「難しいだろう、」ガザレイはそう言うと大きな笑いを浮かべながら、私がゲームをしていたiPadを受け取った。「本当に限界まで試そうとしているからね。」
 このプロジェクト:エヴォのような「脳トレーニング」ゲームはビッグ・ビジネスになっている。アメリカ人はこういったゲームに年間13兆ドル費やしている。そして又、熱い議論の源でもある。業界監視団体は怪しげな商品が溢れていると警告し、ほとんど全ての脳神経学者が、加齢に伴う認知機能の退化をこういったゲームが防ぐ証拠は極めて少ないことに同意している。しかしながらガザレイはその中では抜きん出た存在だ。彼の仕事は、この手のゲームを最も厳しく批判する者からも敬意を払われている。彼は、私がやったばかりのようなゲームのデザインとテストにもう5年取り組んでいる。そして実際こういったゲームが明らかに年取った脳を刺激して、10年若い者と同じように振舞わせるのを発見している(去年、彼の発見を発表した雑誌ネイチャーは表紙に「ゲーム・チェンジャー」というタイトルを付けた)。今、プロジェクト:エヴォは、曲がりくねった道程を進行中だ。ガザレイの助言を受けて開発に当たったボストンの会社アキリ(Akili)は、このゲームに対してアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:F.D.A.)の認可を受けようとしている。もし政府の認可が受けられれば、これはいわば認知症におけるリピトール(Lipitor:高脂血漿治療薬)やバイアグラと同じようなものになる。認知機能が老化した人に医師が処方できるゲームになるのだ。
 ここ数年の間、神経科学者は脳が老化すると共に何が起きるのか調査を始めていて、次第に詳細が判明してきている。それが示す光景は陰気なものだ。40代後半から50代にかけて、私たちの作業記憶は鈍くなり始め、複数のタスクを同時にこなす能力を失い始める。注意を乱すものを排除するのが難しくなり、買い物や読書の際に集中し続けるのが難しくなる。処理速度、つまりは刺激に反応する脳の速度が遅くなる。老人が子供たちのお喋りについてゆくのが大変なのはそれが理由だ。科学者はこのような退化の背後にある身体的変化を追いかけ始めている。例えば、脳の白質を覆う髄鞘(myelin sheathing)が劣化し、精神活動を司る脳の各部位間の調整に時間が掛かるようになる。このような劣化は、アルツハイマーや認知障害とは関係なく起きる。体の他の箇所は健康な成人に普通に起きる老化現象なのだ。「60年あるいは70年以上経過した神経システムで暮らすのは大変なことさ、」アメリカ国立老化研究所(National Institute on Aging)で認知老化プログラムを監督するジョナサン・キング(Jonathan King)は言う。
 ガザレイは20年前、まだ20代の頃に今のキャリアを初めて以後、老化の謎に魅了されてきた。そのころの神経科学は「神経可塑性(neuroplasticity)」革命の真っ最中だった。成人の脳が変更可能で進化しうることが発見されたのだ。それまで科学者は脳の能力は成人になったら漆喰のように固定化されると信じていた。しかし1990年代と2000年代初頭に、新たに生まれた脳スキャン機器の助けを借りて、それが間違っていることを科学者は発見した。脳を生産的に使う仕事を行い、放って置くと衰えてしまうようなスキルでも繰り返し取り組めば、例えば新たな言語を学ぶとかすれば、明らかにスキルが研ぎ澄まされる。問題は、もちろん、私たちのほとんどはひどい怠け者であるということだ。たいていの場合私たちは、耄碌したら精神的に困難な活動に取り組もうとはしない。
 ビデオゲームは一つの可能な対策であるように見える。ビデオゲームで遊ぶと子供たちの認知能力が多少改善するのを研究者は発見している。熱心にビデオゲームをする者は、視覚刺激の認識に優れ、注意を集中させる対象をシフトするのに巧みだ。正に老化した脳が不得意とする仕事だ。
 2005年に任天堂は「脳を鍛える大人のDSトレーニング(Brain Age)」をリリースした。例えば「青」という言葉が黒で表示された時に正しくその文字の色を判断するという(案外難しいのだが)、有名なストループ効果テストのような一連のビジュアル・クイズを通して「貴方の脳を鍛える」と銘打った若干おどけたゲームだ。それ以後、脳トレーニング産業が生まれ、Lumosityのような会社が広告で「科学的にデザインされたトレーニングで貴方の脳に挑戦する」と約束するようになる。例えば神経科学者マイケル・メルツェニッヒ(Michael Merzenich)が立ち上げた会社Posit Scienceは周辺視野の広さを意味する科学用語「有効視野(useful field of view)」の能力 (もちろんも歳と共に退化するもの)を改善するためにBrainHQゲームを提供している。
 こういった脳ゲームに対する大きな疑問は、はたして毎日使うスキルをこれらのゲームが研ぎ澄ませてくれるかどうかだ。もし貴方がLumosity判の古典的Concentrationのような記憶ゲームを毎日やれば、そのゲームには上手くなれるだろう。しかしそれは老眼鏡を何処に置いたか思い出そうとする時に役に立つだろうか?ゲームは貴方の脳を全体として改善してくれるのか?研究ではその証拠は乏しい。紙とペンによる脳トレーニングとしてしばしば勧められるクロスワード・パズルでさえ、この疑問からは逃れられそうもない。クロスワードにできるのは貴方をクロスワードに強くしてくれることだけだ。
 ガザレイは、異なる精神機能をゲームが同時に刺激すれば、そのようなマルチタスク処理が生み出す「妨害」の解消方法を学ぶことで、脳を広く強化できるだろうと推測した。それで彼は、スターウォーズ・ビデオゲームを作ったルーカスアーツのゲーム・デザイナーに、フリーランスで協力してくれと依頼する。「彼らは、『そうだね、僕たちはもう20年もどうやってエイリアンを殺したらよいかティーンエイジャーに教えてきたんだ。何か違ったこと、もっとインパクトのあることを始める時だろうね』と言ったのさ、」ガザレイは言う。
 2009年に彼らの共同作業はニューロレーサー(NeuroRacer)を生み出した。後にプロジェクト:エヴォに発展するプロトタイプで、プレーヤーは曲がりくねった道から外れないように一定の速度で車を操縦することを求められる。同時にプレーヤーはピカピカ光りながら流れてくるアイコンに注意して丸が現れた時ゲームコントローラーのボタンを押さなければならない。ゲームはプレーヤーが習熟してきたら、能力の限界まで到達できるように、段々と難しくなる。
 ゲームが老人の精神にどのような影響を与えるかテストするために、ガザレイは60歳から86歳までの46人の参加者を3つのグループに分けた。最初のグループはニューロスターを週3回1ヶ月間プレーした。別のグループはマルチタスクの無い単純化したバージョン:車を操縦するか丸をクリックするかどちらか一方だけで両方は無いバージョンをプレーした。3番目のグループは一切プレーしなかった。
 その結果、著しい違いが出た。難しいバージョンのニューロスターをプレーした年配の人たちは非常にゲームが上手くなった。20歳のプレーヤーが最初にプレーしたのと同じくらいの腕前だ。そして重大だったのは「変化(transfer)」が見られたことだ。集中力を維持する能力や作業メモリーを測る標準的室内試験で、ニューロスター習熟者は「劇的に改善」された結果を出した。試験で計られたスキルは、ゲームをデザインした時に特別に目標としたスキルではない。それが改善されたのは単なる有利な副作用なのだ。プレーヤーは単にニューロスターが上手くなったのではない。他のことに関しても鋭利になった。コントロール・グループ、即ちゲームをプレーしなかったグループと、操縦とアイコンのクリックを同時にしなかったグループでは、同じような上昇は見られなかった。単に老いを重ねただけだった。
 ガザレイは又、テスト参加者の脳の変化を脳派計の出力結果でも見ている。フルバージョンのニューロレーサーをプレーした人の電気パターンは、ゲームのパフォーマンスと同様に20歳の人と似ていた。前頭葉の活動を計る重要な指標が変化しており、研究者が実行制御(executive control)と呼ぶ機能の改善を示唆している。脳の「一貫性(coherence)」の指標も良く、脳の異なる部位が互いに良好なコミュニケーションをしていることを示している。おそらく最も注目すべきは、このような改善が長期間維持されたことだ。ガザレイが6ヵ月後に参加者を再度研究室に招集したとき、その間彼らはゲームをしてなかったが、マルチタスクをプレーした人たちはコントロール・グループの人たちよりも診断テストで依然として良い結果を残した。
 研究結果は大学の神経科学者コミュニティーに衝撃を与えた。ボストンにあるヘスルケアの会社がガザレイにアプローチし、商用バージョンの開発を持ちかけた。「この技術を研究所の外の産業界に移そうとしたのさ」と彼は話す。そしてこれがアキリ(Akili)を生み出すことになる。ガザレイは新たな共同開発にも乗り出している。その1つはヒット作品ファームヴァイル(FarmVille)を作った会社ジンガ(Zynga)で、同社は気付きの瞑想(mindfulness meditation)の技術を発達させるゲーム、メディトレイン(MediTrain)のデザインに協力した。
ガザレイが働く研究室は子供が夢に描くような場所だ。ムードある照明のゲームプレールームにはリップスティックのような色の椅子があり85インチプラズマテレビが設置されている。「市販されている中で最大の高解像度テレビ」だそうだ。今月私が訪問した時、24歳の研究助手カミー・ロレ(Cammie Rolle)が、まるでエアロビクスをしているみたいにスクリーンの前でジャンプして手を大きく振っていた。彼女がガザレイの新しいゲーム、ボディ・ブレイン・トレイナーをプレーするのをXboxキネクトのカメラが捉えている。全ての動きはスクリーンの中の馬をコントロールするために行われたもので、彼女は障害を避けながら馬を目標に(その時は彩色された野菜に)向けて突進させていた。このゲームで目指しているのは、身体動作がどのように認知トレーニングに影響するか見ることだとガザレイは言う。実験対象に、認知活動であるパターンマッチングと同時に身体運動を強いることで、ある種の正の影響が産まれることを彼は望んでいる。ニューロレーサーがマルチタスキングと実行制御を強化したように。
 「私たちは身体化された認識は速い学習曲線を生み出すと考えている、」彼は言った。これは確かに運動だった。2分間飛んだり跳ねたりした後で、ロレの心拍数は140を越えていた。しかしこれが彼女の脳を改善させたかは、もう1年経たないと判らない。
 ガザレイは研究を進める情熱の強さと同じくらい強く内省的で慎重でもある。彼は、自分の発見はもっと多くのテストを必要としていると何回も私に警告し、これが日常の精神活動にどのぐらい深い影響を与えているかと言う話になると確かなデータは無いと指摘する。真実は、15年も研究していてもなお、どのように、あるいは本当に、脳トレーニングゲームが効くのか、実際のところ私たちには判らない。「これは膨大で乱雑な寄せ集めにすぎないんだ、」パデュー大学の認知心理学者トーマス・レディック(Thomas Redick)は言う。公表された研究結果は相反する発見が詰まった福袋だ。幾つかの実験では、ほんの僅か改善が見られただけで、その他の実験では全く改善が発見されていない。それぞれの研究は、しばしば異なる側面、例えば作業メモリーとか視野とか認知スピードとかを重視するゲームをテストしていて、その結果に対して意味のある比較が出来ない。注意欠陥障害の患者を実験対象とした研究の成果は老人に対しては必ずしも適用できない。子供を対象とした研究は大量にあり、その中には教育会社ピアソン(Pearson)が行った研究があり、同社の製品コグメッド(CogMed)で作業メモリーを増加できたと主張されているが、この方面の証拠もまた不確かなものだ。
 しかしながら商売の世界では誇大広告が一般的だ。アプリ・ストアは大胆な主張で溢れている。例えばエリベート=ブレイン・トレーニング(Elevate-Brain Training)は「広範囲の研究に基づいている」とうたっている。マックス・プランク研究所のディレクター、ウルマン・リンデンバーガー(Ulman Lindenberger)は最近、100日間の認知トレーニングが作業メモリーに「比較的小さい」改善を生み出したという研究結果を発表した。その直ぐ後、ドイツの脳トレーニング会社は、彼の研究と同社の製品の間には何の関係も無いのに、その発表をウェブサイトで引用している。同社はマックス・プランクのロゴマークを勝手に使ってさえいる。
今月、リンデンバーガーを含む30人の科学者からなる国際グループが、こうした状況に我慢できず、「The Consensus on the Brain Training Industry From the Scientific Community(脳トレーニング産業に対する科学コミュニティーのコンセンサス)」を公表し、極めて厳しい口調で企業とメディアの浮かれ騒ぎを批判している。彼らは次のように書いた、「脳ゲーム販促のために行われている主張は頻繁に誇張されており、時として完全に誤解を招くものとなっている。」グループを組織した人間の1人でスタンフォード大学高齢化センター(Stanford Center for Longevity)のディレクター、ローラ・カーステンセン(Laura Carstensen)は、「私たち老齢に関る科学者コミュニティーは、ただ座って事態の成り行きを見守るのでは無く、何か発言する義務があると考えるようになったのです、」と言った。彼女が特に問題視しているのはゲームがアルツハイマーの進行を止めるとする主張だ。「これは良心に反するものです。そんな証拠は無いのですから。そしてこの病気は高齢者が恐れる病のリストのトップにあるのです。」カーステンセンは、ゲームの効果は証明されていると思っている老人たちから話を聞いている。そして脳ゲームの毎月の支払いのために生活を切り詰めている貧しい人々からも話を聞いている。
 カーステンセンと彼女の同僚は、定期的に運動するとか、もっと健康的な習慣を身につけることを人々に勧めている。何故なら心臓が弱くなると脳に回る血流も限られてくるから。新しいスキル、すなわち新しいスポーツとか言語とかを身につけようとする努力も有効であり、活発な社会生活も同じように効果がある。こういったテクニックは、もちろんどれ1つとして100万ドル産業が脳のために良いと証明しようとする類のものでは無い。
 しかしカーステンセンとその他の批判者たちは、脳トレーニングを完全に否定しているのでは無い。これらのゲームを適度にプレーするのであれば何の害も無いと彼らは言う。何らかの効果だってあるかもしれない。「こういったゲームをしたことで、何らかの変化が脳に起こることは充分にありうる、」リンデンバーガーは言う。「私が言いたいのは、何故ダメなんだ?ということさ。」皆、より厳密な研究がなされることを望んでいる。そして大勢がガザレイの仕事をモデルとして引用している。
 ガザレイ自身もこの文書にサインしている。しかし彼は又、あまり悲観的なレトリックを使わないようグループに求めた。「私自身本当に痛みを感じている、」彼は言う。懸念の1つは、あまりにも悲観的な文書にすると、研究資金を出す機関を遠ざけてしまうことだった。「私たちは本当にこれを破壊したいのか?」彼はグループに尋ねた。「ここには本当に何も無いと考えている人がいるかね?私が自分の仕事を通してたどり着いた見解では、ここには何かしらがある。私は慎重な楽観主義者だ。もしここに何も無いと思っているのなら、ここから出て行くさ。自分の全キャリアを無駄にしたいとは思わないからね。」
 脳トレーニングゲームとして一番古い製品の制作会社ポジット・サイエンス(Posit Sience)の設立者であるマイケル・メーゼニック(Michael Merzenich)でさえ、批判には根拠があると認識している。「市場には大量のまやかしと大量の誇張があるからね、」彼はそう私に言った。それでもメーゼニックは自分のBrainHQゲームのことになると、効果が証明されていると自信満々で主張し、競争相手に比べてずっと多くの研究で使われていると指摘する。「大勢の人々にとって、各人が置かれた状況に従ってだが、iPadやコンピュータの前に座ることは災厄を逃れる術なんだ、」彼は言う。彼は又、活発な生活を送ることを勧めてもいるが、「時間の使い方で言えば、神経系の変化を促進する上で私のゲームより効果的な方法は無い」とも言っている。その見解によってメーゼニックはこの分野での意見の相違を際立たせる存在になった。私がリンデンバーガーにメーゼニックのことを尋ねた時、彼は言った。「あの誇大な主張の証拠を持っていると断言できるようなセンスで、いったいどうしたらビジネスの基礎を科学に置いていると言えるのか、私には判らないね。」
 今までのところ、現実世界での効果にも注目しながら、大勢の高齢者を数年間追跡した研究は1つだけだ。1999年に始まり3000名の健康な高齢者を対象とする、高齢者向け先進的認知力トレーニング(Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly, or Active)がそれだ。研究対象グループの1つは露骨に速さを競うコンピュータ・ゲームをプレーした。そのゲームはバーミンガムにあるアラバマ大学の心理学部でチェアウーマンを務めるカーリーン・ボール(Karlene Ball)がオリジナル版を開発し、後にポジット・サイエンスが買い取ったものだ。ゲームは、段々と時間を短くしながら画像を表示し、プレーヤーにそれが何かを当てさせる。被験者は合計で5週間の間に10時間相当の練習時間しかもらえず、一年後にフォローアップで数時間の「ブースター」トレーニングを、そしてさらに3年後に再び同じトレーニングを受けた。
 それでも効果はハッキリと出た。10年後にテストを受けた時、ビデオゲームをプレーした者は処理速度(speed-of-processing)テストで、何のトレーニングもしなかったコントロール・グループより良い成績を出した。さらに驚くべきなのは、効果が研究所の外でも発揮されたことだ。コンピュータ・ゲームをプレーした者はコントロール・グループよりも自動車事故を起こす割合が50%少なかった。トレーニングはハンドルを持つ被験者をより鋭敏にしたようだ。
 このような長くかかる我慢強い研究の次なるステップは法的認可を得るF.D.A.の認証だろう。数件のゲームが現在、連邦政府の認可プロセスを通り抜けようとしている。アキリ社は今、老齢に伴う症状の治療とアルツハイマーの早期検出ツールとして、プロジェクト:エヴォのトライアルを計画中だ。アキリ社のヴァイス・プレジデント、エディー・マルトゥッチ(Eddie Martucci)は、F.D.A.だけでなく、医師たちが自信を持って処方できるよう、ゲームのパワーを存分に証明するテストを望んでいると言う。「やっと認可を通るなどと言うのは私たちのビジネスモデルではありません、」マルトゥッチは言う。「私たちは医師にも監督官庁にも、何の疑いも持って欲しく無いのです。」
 マルトゥッチの会社、ポジット・サイエンスがF.D.A.の認可を求めている処理速度ゲームは、片側の視野を失い、手足を動かさなくなることもある症状、脳梗塞患者の半側空間無視症状の治療で効果を見せている。「私たちは幾つか、現実世界での効果を目撃しています、」ポジット・サイエンスに雇われる前、このゲームの開発に関っていたトム・ヴァン・ヴリート(Tom Van Vleet)は言う。ゲームをした後、「ある男性は6年間も使ってなかった腕を使ったんです」と彼は主張する。
 66歳のアン・スチュアート(Ann Stewart)は、ガザレイのニューロレーサー研究に参加した1人だ。最近私は、7年前夫を亡くして以来一人暮らしをしている彼女の家、アートに溢れた居心地よさそうな家を訪ねた。ウィットに富んだ白髪のスチュアートは認知症を患っているようには見えない。引退するまえ、彼女は商用不動産会社のパートナーだった。彼女がビッグサー(Big Sur)の音楽キャンプに参加したのは、そんなに前では無い。しかし60代になって彼女は自分が忘れっぽくなったことに気付く。財布を一晩中車に置きっぱなしだったこともあった。「怖かったわ、」彼女はそう私に言った。実験のことを聞いた時、彼女はそれに飛びついた。
 彼女は本当にニューロレーサーに夢中になった、そして上達した。「あれを取り上げられた時は本当に悲しかった!」彼女は言った。彼女の経験は脳トレーニングの可能性と限界の両方を描写している。技術的に言えば彼女はマルチタスキングに強くなったと自覚し、症状が改善された一群の人間たちの1人で、「毎日の動作ではもっとハッキリと感じている」と言う。しかし日常生活で改善された例を訊かれると、彼女は思い悩んだ。実際のところ、財布を忘れるのを防止するために、彼女はもっと月並みでローテクな解決方法を選んだ。大きくて忘れそうも無い財布を買ったのだ。
 高齢の人たちは認知機能の退化を補う賢明な工夫を長いことしてきている。身の回りにあるあらゆるもので認知を喚起してきたのだ。薬は台所のテーブルの上に置いておく。そこにあれば毎日薬を飲むことを思い出す。やることリストとかポストイットは記憶を補うために使われる。もし認知機能が既に損なわれていて、脳トレーニングがある程度しか役に立たないとすれば、他の方法を探すのだ。
 脳を改善するのではなく、補助するテクノロジーは同じように有望なものであるだろう。既にテクノロジー会社は、記憶や認知の機能を外部の装置に任せて高齢者を助ける方法を開発している。大きな財布よりも洗練されたデジタルツールを作っているのだ。例えばヴァイタリティー社はグロウキャップスという製品を作った。開けられたことを記録する薬ビンだ。もしユーザーが時間通りに薬を飲むのを忘れたら、蓋についたLEDランプが点灯して知らせる。もし数時間開けられないままだったら、薬ビンは警告e-mailとかテキストメッセージを送信する。2010年のトライアルでは、このスマート・ボトルのユーザーが時間通りに薬を取る割合は98%で、コントロール・グループは71%だった(全ての情報を公開しよう:私は実験に資金を提供した非営利団体パートナーズ・ヘルスケアの為に自著「Smarter Than You Think(貴方が思うより賢い)」について、無料で講演をしたことがある)。同じような装置について中国で行われた小規模な実験でも有益な結果が出ている。
 このようなツールが、さらに積極的に私たちの機能を補ってくれる世界を想像することもできるだろう。自動運転自動車は運転に伴う認知機能に問題を抱える高齢者に大きな福音となるだろう。アップル・ウォッチとかグーグル・グラスとかのウェアラブル・コンピュータをGPSや位置情報センサーと組み合わせれば、私たちの老化した頭脳に、その場所で何をするつもりだったのか思い出させることができる。雑貨屋にいるんだったらドッグフードを忘れないようにとか。
 若い人々の中には、このようなデジタルツールが蔓延する社会に恐怖を感じる人もいるかも知れない。これほどまでに多くの機能を外に出してしまったら、もはや自分の脳とは言えなくなってしまうのではないか?しかし既に認知症と格闘している高齢者にとって、そのような形而上の疑問は何の役にも立たないだろう。しかしどのような方法であれ、外部の世界が思考を助けてくれるというのは、充分哲学的な話ではある。

~~ここまで~~

翻訳が終わり次第、適時更新します。
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Author:ゾノシン
英語の勉強の為に、ニュースサイトの記事を読んでいるうちに、面白さにつられて翻訳してみようと言う無謀な事を始めました。大変なので更新は一週間に一回位になると思います。どこまで続けられるか解かりませんが。

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